171 / 202
一日をあなたに
覚えていて
しおりを挟む
私は、助手席を開けて宮部さんを乗せた。
後部座席にプレゼントを乗せて、運転席に乗り込んだ。
エンジンをかけて、私は宮部さんに話す。
「この話を覚えていてもらっていいですか?」
「あっ、はい。待って」
宮部さんは、そう言ってスマホの動画ボタンを押した。
「どうぞ」
「走りながら、話しますね」
「はい」
私は、車を出した。
「この人のビジョンは、師匠に、魂を抹消されたのでありません。でも、私は彼女の事を忘れたくなかった。だから、別の引き出しに自分の記憶の一部として保管しています。」
「はい」
「彼女の名前は、有栖川美乃梨(ありすがわみのり)さん。」
「はい」
「年齢は、43歳でした。」
「はい」
「美乃梨さんは、誰もが羨むような旦那さんと結婚して、一戸建ても建てました。」
「はい」
「しかし、結婚して何年経っても子宝には恵まれませんでした。」
「はい」
赤信号で停まって、宮部さんをチラッと見ると仕事モードの顔をしている。
「旦那さんは、治療には非協力的でした。有栖川の家のものとして恥ずかしいから治療は絶対に、やらないと言われたそうです。彼女は、自分でやれる事をした。色んな事を自分なりに調べ出来る事をした。」
「はい」
「結婚したのが、23歳でね。彼女は、20年間不妊に苦しんだ。それでも、まだ産める。まだ産めると思って頑張ってきたんだと言った。」
「はい」
「彼女が、死んだのは何故だと思う?」
「旦那さんの不倫ですか?」
「不倫は、許せた。許せなかったのは、不倫相手の妊娠だった。」
「そんな、酷い裏切りです。」
私は、車を駐車場に停める。
「旦那さんは、産ますつもりはなかったらしいけれど。女は、彼女の前に勝ち誇った顔で現れたと言った。その顔を見た時に、自分が惨めだと思ったって。治療をしないと言われたから、出来る事をやってきた自分。それでも、出来なかった。諦めたくなる気持ちを、折れる心を、何度も何度も叩いて、叩いて、奮い立たせて頑張ってきた自分。夫は、僅か一年で、その女を妊娠させた。自分とは、20年出来なかったのにこの人とは一年で…。彼女より一回り年下の不倫相手は、哀れで可哀想。私の勝ちだと彼女に笑った。わざわざ、夫がいない時間にやってきて告げたのだ。」
宮部さんは、泣いていた。
私も思い出して泣いている。
「三日月先生、私は汚(きた)ならしい人間です。そう言って、彼女は泣いていた。蔑まれた目に、哀れで可哀想だと言われた日に、彼女が誇らしげに大きなお腹を擦っているのを見て、自分は女として無価値だと思い知ったと言った。」
「宝珠(ほうじゅ)は、何て言ったの?」
「美乃梨さんはね、43歳に思えないぐらい綺麗な人だったんだよ。私は、女として、魅力的で素晴らしいですよって言ったんだ。そしたら、美乃梨さんは笑った。美乃梨さんは、私と1週間過ごしたんだ。どうしても、女として価値があったと思いたいからって…。」
「はい」
「私が、帰ってくるとおかえりって美乃梨さんが待っててね。眠る時は、隣で眠った。私は、美乃梨さんの髪を撫でてあげた。頬の涙を拭ってあげた。美乃梨さんは、一週間後満たされて成仏した。」
「旦那さんには?」
「会いに行かなかった。10年前に、事故で他界した両親の元に行ったよ。私は、彼女のビジョンを見て、授かれない苦しみを知ったんだ。ただの子作りをするだけの交わり。キスもしない。段々と夫婦はすれ違って、暴言を吐く日々。思いやりを持てなくなるのがわかった。それは、お互いに…。だから、彼女は不倫は許せた
と言った。お互い様だから、不倫は許せた。許せなかったのは、子供が出来た事。それは、夫婦の二人の夢だと思っていたからって。」
宮部さんは、泣いている。
「夢ですか?」
「うん。二人の子供を授かる事は夢で、一緒に叶えたい目標だと思っていた。彼女は、夫が不倫した事が許せなかったんじゃないって…。二人の夢を別の人と叶えた事が許せなかったんだって泣いていた。」
「どうして、この話を私に?」
「抹消されてしまった魂だから、もうビジョンが残っていない人だから…。宮部さんに記事にしてもらえたらいいかな?って思ったんです。私の中にしか残っていないから…。」
宮部さんは、私の手を握りしめた。
後部座席にプレゼントを乗せて、運転席に乗り込んだ。
エンジンをかけて、私は宮部さんに話す。
「この話を覚えていてもらっていいですか?」
「あっ、はい。待って」
宮部さんは、そう言ってスマホの動画ボタンを押した。
「どうぞ」
「走りながら、話しますね」
「はい」
私は、車を出した。
「この人のビジョンは、師匠に、魂を抹消されたのでありません。でも、私は彼女の事を忘れたくなかった。だから、別の引き出しに自分の記憶の一部として保管しています。」
「はい」
「彼女の名前は、有栖川美乃梨(ありすがわみのり)さん。」
「はい」
「年齢は、43歳でした。」
「はい」
「美乃梨さんは、誰もが羨むような旦那さんと結婚して、一戸建ても建てました。」
「はい」
「しかし、結婚して何年経っても子宝には恵まれませんでした。」
「はい」
赤信号で停まって、宮部さんをチラッと見ると仕事モードの顔をしている。
「旦那さんは、治療には非協力的でした。有栖川の家のものとして恥ずかしいから治療は絶対に、やらないと言われたそうです。彼女は、自分でやれる事をした。色んな事を自分なりに調べ出来る事をした。」
「はい」
「結婚したのが、23歳でね。彼女は、20年間不妊に苦しんだ。それでも、まだ産める。まだ産めると思って頑張ってきたんだと言った。」
「はい」
「彼女が、死んだのは何故だと思う?」
「旦那さんの不倫ですか?」
「不倫は、許せた。許せなかったのは、不倫相手の妊娠だった。」
「そんな、酷い裏切りです。」
私は、車を駐車場に停める。
「旦那さんは、産ますつもりはなかったらしいけれど。女は、彼女の前に勝ち誇った顔で現れたと言った。その顔を見た時に、自分が惨めだと思ったって。治療をしないと言われたから、出来る事をやってきた自分。それでも、出来なかった。諦めたくなる気持ちを、折れる心を、何度も何度も叩いて、叩いて、奮い立たせて頑張ってきた自分。夫は、僅か一年で、その女を妊娠させた。自分とは、20年出来なかったのにこの人とは一年で…。彼女より一回り年下の不倫相手は、哀れで可哀想。私の勝ちだと彼女に笑った。わざわざ、夫がいない時間にやってきて告げたのだ。」
宮部さんは、泣いていた。
私も思い出して泣いている。
「三日月先生、私は汚(きた)ならしい人間です。そう言って、彼女は泣いていた。蔑まれた目に、哀れで可哀想だと言われた日に、彼女が誇らしげに大きなお腹を擦っているのを見て、自分は女として無価値だと思い知ったと言った。」
「宝珠(ほうじゅ)は、何て言ったの?」
「美乃梨さんはね、43歳に思えないぐらい綺麗な人だったんだよ。私は、女として、魅力的で素晴らしいですよって言ったんだ。そしたら、美乃梨さんは笑った。美乃梨さんは、私と1週間過ごしたんだ。どうしても、女として価値があったと思いたいからって…。」
「はい」
「私が、帰ってくるとおかえりって美乃梨さんが待っててね。眠る時は、隣で眠った。私は、美乃梨さんの髪を撫でてあげた。頬の涙を拭ってあげた。美乃梨さんは、一週間後満たされて成仏した。」
「旦那さんには?」
「会いに行かなかった。10年前に、事故で他界した両親の元に行ったよ。私は、彼女のビジョンを見て、授かれない苦しみを知ったんだ。ただの子作りをするだけの交わり。キスもしない。段々と夫婦はすれ違って、暴言を吐く日々。思いやりを持てなくなるのがわかった。それは、お互いに…。だから、彼女は不倫は許せた
と言った。お互い様だから、不倫は許せた。許せなかったのは、子供が出来た事。それは、夫婦の二人の夢だと思っていたからって。」
宮部さんは、泣いている。
「夢ですか?」
「うん。二人の子供を授かる事は夢で、一緒に叶えたい目標だと思っていた。彼女は、夫が不倫した事が許せなかったんじゃないって…。二人の夢を別の人と叶えた事が許せなかったんだって泣いていた。」
「どうして、この話を私に?」
「抹消されてしまった魂だから、もうビジョンが残っていない人だから…。宮部さんに記事にしてもらえたらいいかな?って思ったんです。私の中にしか残っていないから…。」
宮部さんは、私の手を握りしめた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!
ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。
反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。
嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。
華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。
マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。
しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。
伯爵家はエリーゼを溺愛していた。
その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。
なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。
「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」
本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。
【完結】攻略対象×ヒロイン聖女=悪役令嬢
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
攻略対象である婚約者の王子と、ヒロインである聖女のハッピーエンドで終わったはず。冤罪で殺された悪役令嬢の悲劇は、思わぬ形で世界に影響を及ぼした。
それはさておき、私、元婚約者とヒロインの間に生まれちゃったんですけど?! どうなってるのよ!
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/03/25……完結
2023/01/16……エブリスタ、トレンド#ファンガジー 1位
2023/01/16……小説家になろう、ハイファンタジー日間 58位
2023/01/15……連載開始
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2024/11/24:『ぶひん』の章を追加。2024/12/1の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/23:『どようのあさ』の章を追加。2024/11/30の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/22:『なにかいる』の章を追加。2024/11/29の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/21:『さむいひ』の章を追加。2024/11/28の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/20:『じょなさん』の章を追加。2024/11/27の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/19:『あまどのおと』の章を追加。2024/11/26の朝4時頃より公開開始予定。
2024/11/18:『あしおと』の章を追加。2024/11/25の朝4時頃より公開開始予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる