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一日をあなたに

三日月さんが好き

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私は、やっぱり三日月さんが好き。
三日月さんの堪らなく優しいところが好き。

「希海(のぞみ)、弱い方が守る対象だと決めた世の中がおかしいと私はずっと思ってる。」

三日月さんは、そう言って泣いている。

「私は、昔電車によく乗っていた。痴漢にあった事が何度もあるんだ。その人はね、見るからに小さな女の人だった。我慢したよ。毎日耐えた。だって、力を出せば私の方が敵うだろ?それに、その人の手を握って痴漢ですって言った所で誰が信じてくれる?だから、私は、降りる駅までジッと我慢してた。怖くて、怖くて、堪らなかったよ。それでも、男の私は声をあげる事も許されないんだよ。」

三日月さんの言葉に、私は泣いていた。

「それが、嫌で時間をずらしたら赤ちゃんの泣き声だった。痴漢されていた時と同じだよ。この子にうるさいと言ったら悪人にされるんだ。ジッと耐えるしかなかった。その電車に乗らなければ、遅刻するから。乗るしかなかった。」

「宝珠(ほうじゅ)、強いものは、耐えなければ駄目なの?男だったら、やめてって言ったら駄目なの?私が親戚の子を叩いた日に、あの子が私を刺していても、私はあの子に虐待した叔母なの?」

三日月さんは、私の涙をゆっくり拭ってくれる。

「それが、今の世の中なのだろう?弱い者は守る対象であって傷つけることはない。歯向かう事はない。そう、教えられて生きてきたんだよ。だから、男は痴漢されても、襲われても黙っておくしかないんだよ。占いにきたお客さんで同じ事を言っていた人がいた。今の人と結婚したいけど、酒に酔った時に、女性に襲われた事がトラウマになって踏みだせないって…。結局、その人は彼女と別れた。」

三日月さんの目から、ポタポタと涙が流れていく。

「弱いものと守る対象は、きっと同じではないですよね。私は、これから先も皆が大好きな子供は好きにはなれない。それが、バグだって言われるならそれでいいと思う。」

「それが、希海の考えならいいんだよ。私は、少なからず三日月のものとして子孫を残したい気持ちはあった。多分、そう思えたのは三日月家(みかづきけ)の赤子達や育て方にあったのかもしれない。」

「普通と違うの?」

「三日月では、子供だからと許される事はない。私自身、許された事はない。3歳を迎えたら、自分の行いに責任をつけさせられた。それは、器に魂がしっかりと張り付いたとみなされる年齢だから…。だから、世間ではきっと子供らしからぬ態度で可哀想と思われる対象だったと思う。それでも、周りの年頃の近い糸埜(いとの)や二条や喜与恵(きよえ)や豊澄(とよす)が私を子供らしくしてくれていた。まあ、師匠にはよく怒られたけれど。伸び伸びと育てるとは、違う。最初から、制限された中で自由を見つけなければならなかった。」

「子供だったら、辛い事だよね。」

「確かに、辛い。しかし、大人になって気づいた。三日月で育てられてよかったと…。何でも許された子供時代がなかったからこそよかったのだと!許してくれる大人はいなかったから、私達は皆一人一人、自分の能力に責任を持って生きなければならなかったから…。」

三日月さんは、私の頬に置いてあった手を頭にもってきて撫でてくれる。

「希海、三日月のものと関わってみてはどうですか?」

「どうして?」

「希海の気持ちを理解してくれるものがおります。」

「それは、宝珠じゃないの?」

「私は、化け物だから。生きれても、希海とはいれない。だから」

「今日は、そんな事」

「そうでしたね」

三日月さんは、笑ってくれる。

「私は、沢山の幽体を見てきたでしょう。」

「はい」

「幽体の数だけ人生を見てきた」

「はい」

「その方達を見て思った事があった。皆違っていいんだ。当たり前って口では言ってるのに、何故世の中はまだそこには辿り着かないんだろうかと…。子供が欲しくて亡くなった幽体も知ってる。全てを手に入れて全てを失った幽体も知ってる。私は、幽体の話を聞いて愛には一つとして同じものはないのを知った。」

三日月さんは、私の頭を撫で続けてくれている。
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