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一日をあなたに

どうしても、好きになれない

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宮部さんは、涙でいっぱいの目を私に向ける。

「まだ、実家に居た時に、両親に結婚して早く子供を産みなさいと言われた。私は、今と全く同じ事を言ったの。そしたら、両親は自分の子供を産めばなおると言った。私には、直るように思えなかった」

宮部さんは、ハンカチを取り出して涙を拭ってる。

「仲良かった友達からも子供は可愛いと言われた。私は、同じ話しをした。そしたら、子孫繁栄に、興味がない人なんかいないわっているとしたら、思考回路が壊れてるんじゃない?って、バグが起きてるだけよって!本当に好きな人の子供なら産みたくなるわって言われた。」

宮部さんの痛みを感じて、私は涙がとめられない。

「だから、おかしいんだと思った。皆と同じように子供を欲しいと思わなくちゃいけないんだって!だから、必死に取り繕ったの。好きなフリをして。親戚の子供を抱いたり遊んだり…。でも、可愛くないのよ。涎を垂らされて汚(きたな)いって思った。お菓子を食べたベタベタな手で触(さわ)られて吐き気がした。頑張っても、頑張っても直らなくて…。だけど、おかしいんだって。だから、普通にならなきゃって皆と一緒にならなきゃって…。」

私は、宮部さんの頬に右手を当てて涙を拭う。

「そうしていったら、自分が何の為に生きていくのかわからなくなったんじゃないか?希海(のぞみ)」

宮部さんは、目を開いて私を見つめている。

「普通と書いたラベルをつけたら、自分が欲しいものが結婚や子供のような気がした。でも、少しずつずれていくようになる。歳を重ねていくと、自分が欲しいものが浮かび上がっては消えていく。無理に、そこにいる必要はないはずなのに…。世間という枠が、自分を押さえつける。」

宮部さんは、私の右手を握りしめる。

深呼吸をひとつしてから話す。

「私は、自信がないの。誰かの親になれる自信が全くない。それは、自分の子供であっても同じ。子孫繁栄が備わってるっていいますけど、私にはないです。昔から、子供を欲しいとも思わない。親戚を見ていても、この人達と違う道を行くのだと幼い頃からずっと思っていた。そこに、私の思い描(えが)いてる幸せなど何一つないのがわかってたから…。」

私は、宮部さんの涙を拭ってあげる。

「それのどこがいけないのだ?結婚したいと嘆く人がいる。子供が欲しいと嘆く人がいる。一方で、結婚したくないと嘆く人がいる。子供は欲しくないと嘆く人がいる。どちらも、あっていいじゃないか?何故、他人が自分と違う価値観でいると、自分が生きてきた場所が素晴らしいと押し付けるのか…。私には、全く理解できないんだ。」

宮部さんは、私の頬の涙を拭ってくれる。

「希海。私は、希海が苦しんでるのがわかる。痛みが流れてくる。可愛くないと思って嫌な顔をする自分を責めなくていい。どうして、皆が子供を好きだと決めつけるのだ。打ち明けてくれたのだから、私もお返しするよ。」

私は、希海が頬に当ててくれてるその手を左手で握りしめる。

「私も嫌いだった。毎日、酒を飲まないと寝れなかった日々の中で電車で赤ちゃんが大声で泣いた。向こうも大変なのは、わかる。わかるけど、頭に響くのだ。だから、さっきのは私の本音だよ。寝不足や二日酔いの時の子供の声は頭に響いてガンガンと割れるように痛い。苦痛で、大嫌いで、本当に子供が嫌いだった。」

宮部さんは、ボロボロ泣いている。

「ある日、電車に乗ってるおじさんが怒鳴りつけた。うっせー。黙らせろって、そしたら周りの人間は、こう言った赤ちゃんは泣くのが仕事なの。あなたも昔はそうだったでしょ?いちいち、苛々するなよ。まるで、そのおじさんが一番の悪になった。赤ちゃんは正義で、おじさんは悪。世の中と似てると思った。子供がいる人が、正解で、いない人は不正解。そんな気持ちになった。だから、私は、つい言ってしまったんだ。」

宮部さんは、私の右手をギュッと握った。

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