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準備と残り時間…

肉体返還まで、残り2時間

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私は、喜与恵(きよえ)から離れた。

『体の力が、うまくはいらないのね。』

真理亜が、やってきた。

「真理亜さん」

『喜与恵も、力がはいらないのね。』

真理亜は、私と喜与恵の手を握りしめる。

『抹消されるのね…。二人とも』

『真理亜、もう、私は疲れた。』

『生まれ変わりたくなかった?』

私は、首を横に振った。

『生まれ変わりたい理由が出来たのね』

真理亜は、私に優しく微笑んだ。

『終わらせる事しか考えていなかった。なのに、初めて生きたいと思ったんだ。皆と生きて行きたい。子供だった頃に、そう思ってた気持ちを、今消えようとしてる頃に思い出すなんて…。私は、馬鹿だよ。真理亜』

『宝珠(ほうじゅ)は、本当に馬鹿です。大馬鹿です。』

私は、真理亜の頬に触(ふ)れる。

『真理亜、師匠から聞いたんだ。真理亜は、一生人間にならぬと、どういう意味だ。』

『三日月万珠(みかづきまんじゅ)に宝珠との縁を抜くと言われた。私は、それを拒んだ。万珠は、怒り狂いました。私の縁を抜こうとし始めた。だから、言ったの。人間には、一生戻らないから抜かないでと…。』

真理亜は、そう言うと耳の後ろを見せる。

『気付かなかった。』

『見せないように、髪で隠していた。』

契約の赤い丸が、耳の後ろにホクロのようについていた。

『何故、そんな契約をかわした』

『幽体でも、妖怪でも何でも構わない。三日月宝珠(みかづきほうじゅ)との縁が繋がっていけるなら、私は何もいらない。私は、死ぬ時に、宝珠を見たの。』

真理亜は、そう言って私の頬を撫でる。

『お腹に宝珠の赤子がいる私と優しい宝珠。赤子の誕生を楽しみにしてくれてた。私は、幸せだった。でも、次の瞬間には死んでいた。私は、この人を見つける為にこの世にやってきたのねって思った。だから、そんな簡単に縁など抜かれたくない。私は、一生宝珠と生きる。死んでもずっと…』

私は、真理亜の言葉に涙が流れてくる。

「真理亜さん、まさか!!」

『まさか、あの方に頼んだのか?嫌、あの方以上の人に会いに行ってきたのか…』

真理亜は、笑って私を見つめる。

『大丈夫。ずっと一緒だから…』

『真理亜も、抹消されるのか?』

『気にしないで』

『生き延びても、あちらに封印されるのか?』

『もう、話さないで。疲れたでしょ?』

真理亜が、わざと私の話をそらしていくのを聞いて、そうなのがわかった。

『私なんかの為に…』

泣きながら真理亜の頬に手を当てる。

『宝珠だから、いいの』

そう言って、優しくキスをされる。

『もう、力がほとんど残ってないのね』

「私もです。」

喜与恵は、そう言って私の肩に頭をのせる。

もう、座っているのも辛い。

『宝珠、いつだって優しいのね。こんなにも、辛いのに…』

『私は、優しくなどないと思う。誰も幸せに出来ないとずっと思っていた。真理亜を縛り付け、喜与恵を縛り付け、私は誰も幸せに出来なかった。』

「そんな風に、自分を責めないで下さい。宝珠」

『ありがとう、喜与恵』

『私は、宝珠に縛られて幸せよ。生まれ変われなくたっていい。宝珠の傍にいれるなら、何も何もいらない。』

「私もです。何もいりません」

真理亜と喜与恵の言葉に、私は泣いていた。

人間として産まれ堕ちた瞬間から私は、能力者だった。

それが、嫌で堪らなかった。

私も私の子孫が欲しいと思った日もあった。

でも、それは叶わなかった。

それでも、生きてこれたのは幽体達のお陰だった。

何が幸せか、何の為に産まれたのか、時々わからなくなった。

それでも、私に会いに来る幽体達の話を聞くだけで、私は生きる意味を見いだすことが出来たのだ。

私は、幽体を愛している。

それは、一生変わらない事だ。

『宝珠、もう膝まで消えかけてる。喜与恵、体が薄くなってきてるわ。』

『真理亜も、足が消えてきてる』

「皆で、いくのですね。怖くありませんよ」

真理亜は、私と喜与恵の手を力強く握りしめる。

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