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消せない気持ち…

せやから、わかる

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広大(ごうだい)さんは、糸埜(いとの)の傍に行って頭を撫でた。

「せやから、わかるで!糸ちゃんが、今の奥さんに感じてる気持ちも。美百合(みゆり)ちゃんに感じてる気持ちも。縁を断ち切った痛みも。」

「それで、どうしたのですか?」

「さっきゆうたやろ?一個だけやり方あるって。僕は、それで彼女との縁を戻したんや。名前は、真空(まそら)ってゆうねん。めちゃくちゃ素敵な人やったんやで。子供なんか出来へんでもええから。真空と人生を歩みたかった。そやから、僕は糸ちゃんと違って、真空といろんな事をした。僕は、後悔なんかしてへんよ。」

その言葉に糸埜は、泣いている。

「私は、さっき縁を断ち切ってもらったのに…。」

「僕が見つけたやり方は、縁を戻しても痛みも苦しみもないんよ。だから、今のまんまやで!糸ちゃんは、今のまんま。奥さんが好きやから。ただ、来世の為に繋ぐだけやから」

「広大さん、私は美百合と来世は一緒になれるならなりたい。だって、この世ではもう無理だから。美百合が、私を探していた事を知らなかった。妻を裏切ると思ってたから…。でも、初めから裏切ってたんだね。ずっと、美百合を心の奥底で思ってたのだから…。」

「それだけ、前世の縁は深くて濃いんよ。簡単には、断ち切れんよ。触(ふ)れたら最後や。止められんくなる。僕も真空にそうやった。だからって、不倫は正義やなんか思ってへんよ。産まれ落ちた、時間がちゃうかった。もしかしたら、会われへんようにされたんかも知れん。それでも、僕は真空に出会ってしもた。不倫は、悪で罪深い事かもしらんね。せやけど、真空の旦那さんは、帰ってけーへんかったから。やから、僕もよけい真空に会えてしもたんや」

広大さんは、笑って頭を掻いてる。

「初めて、幽体と話したのは真空さんだったんだな」

五条は、煙草に火をつけた。

「まぁた、僕の心読まんといてや。せやで、真空や。僕は、名前のわかるもんは呼び出せるから、だから真空を呼んだ。」

「それで、どうなったのですか?」

「聞きたかったんや。僕の事ホンマに愛してくれとったんか。愛してるやつの目の前で普通死なんやろ?せやから、聞きたかった。」

「真空さんは、何て?」

広大さんは、ネックレスを握りしめた。

「愛しとったけど、どうにもならん事があるんよって笑っとった。真空の中で、旦那さんはやっぱり必要な存在やったって。僕に出会ってめちゃくちゃ引き寄せられたけど、それとは違う穏やかな感情(きもち)やったって。せやから、旦那さんとの子供を諦めるんは嫌やったって。矛盾してたんよって笑(わろ)てたわ。人間なんて、そんなもんやろゆうたら。歳があと10歳若かったら、僕の手を握りしめとったよって。」

そう言うと、広大さんは笑いながら泣いてる。

「そんなん絶対無理やんか!若返る魔法なんかあらへんねんから。そん時に思ったんや。満月(まんげつ)に嫁(とつ)ぐのも僕の決められた運命(さだめ)やったんやなって。突然、人ならざるものが見えたのは十(とお)の時やった。あの頃に、もう僕と真空の運命はかわってしもたんやと思う。」

「そんな悲しい運命だなんて…」

「後に、調べてわかったんわ。織原家(おりはらけ)とうちの杉原家(すぎわらけ)は、150年以上前に女の子供しか産まれんで。三日月に吸収された能力者一族やったって事。美百合(みゆり)ちゃんのとこのお祖父さんが死んだ後に分厚い日記みたいな本が出てきて知ったわ。ご先祖様は、いつの世か復活を願っとったみたいやったわ」

広大さんは、そう言って笑った。

「幸せな時間はあった。でも、能力者として生きねばならなかったのですね。」

「糸ちゃん。それも、また運命やろ。せやから、僕は来世に期待するわ。糸ちゃんは、どないすんの?」

「私も、来世に期待したいです。やっぱり、美百合との縁は繋げておきたい。あんなに愛していたから…。」

「せやったら、全部。終わったら、やったるわ。僕が…」

「お願いします。」

糸埜は、頭を深々と下げた。

「後、五条。人のことばっか言うてるけどな。お前のんも見えてんで。何で、それ皆にゆわんの?」

五条は、煙草を消して広大さんを見た。

「いずれ、宮部さんに話すよ」

『五条、私のを読んだのか?』

「読んだ」

「なーんや。僕も記事にして欲しいわ」

「宮部さんって方が、やってきたぞ。」

祐大さんの言葉に、私は階段を見つめた。

奈良橋祐大、敷地内にやってくるものの姿を見つけられる。そして、その相手のビジョンを見る事ができる。幽体、人間、動物、可能である。

普段は、offにしていないと疲労が強すぎる能力だ。

「こんにちは」
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