133 / 202
前世からの縁
断ち切る痛みと苦しみ
しおりを挟む
「私ね。夢で何回もおうた人と結婚する言うて、縁談全部断ってたんよ。せやけど、その人にはもう相手がおったみたいやわ。諦めるわ。こんなに、苦しくて痛くて悲しくても、私が捨てんな。その人が、可哀想でしょ?そう思わへん?糸埜(いとの)君」
私は、ボロボロと泣き出す彼女を見つめていた。
僅かでも、能力のある者達は自分の気持ちを押さえて生きて行くのを知っている。
美百合(みゆり)もまた、それを知っていた。
「美百合(みゆり)って、今日だけでも呼んでくれへん?私も、糸埜って呼ばせてくれへん?」
「いいよ。」
髪を撫でてやりたかった。
「糸埜は、今の人と結婚したんは最近?」
「そうだね。3ヶ月になる。付き合ってからは、一年だった。」
「前世からの縁って、凄いんやね。私なんか、太刀打ちできへんわ」
「そんな事は…。」
本当は、美百合なのだ。
前世からの縁は、美百合なのだ。
スポットライトが、当たったように美百合だけが浮き上がった。
それから、ずっと千切れそうな程痛くて苦しくて、今だけでも、今だけでも、許して欲しかった。
「今だけでも、私を見て欲しいなんて、不倫女が思うことやね」
ニコって笑った目から涙が流れ落ちる。
「そんな事ないよ。美百合」
涙を拭ってやりたい手でビールを掴んで胃袋に流し込む。
私が引き寄せたせいで、美百合が苦しい想いをしたのだ。
まさか、会うとは思わなかった。
「でもね。私は、傷つけたくないから。苦しくても辛くても、頑張ってなくす。だから、ごめんね。今だけは、許して糸埜」
ボロボロと涙を流す美百合に頷いてあげる事しか出来なかった。
不倫は、悪だと罪だと思っていた。
でも、美百合に出会って知ったのだ。
前世からの濃くて太い縁の存在への気持ちに打ち勝つなど容易ではないのだ。
私一人が、頑張った所でどうにもならぬのだ。
「今日は、満月やね」
「本当だね。」
「糸埜、満月を見上げる日が、この先あったら、私の事思い出して欲しい。」
私が、口を開くよりも素早く美百合が言葉を発する。
「なーんや、冗談も伝わらんの?関西人やったら、せやな、思い出したろかしゃーなしやけどなってゆうてくれるで!それを、私がなんでやねんって突っ込むとこやんかぁー。何か、損したわ」
涙を堪えながら、饒舌に話す姿に心臓が痛くて苦しくて耐えられなかった。
「なんでやねん…」
私は、ポツリと言った。
「今ー?突っ込むとこあらへんかったし。それに、変な言い方やったよ。糸埜」
そう言って、笑った瞬間に涙がポタポタと流れ落ちた。
「美百合、ごめん。私と美百合は…。」
「やめてや。謝らんといて。何か私が、糸埜を困らせてるだけやないの。そんな風にゆわんといてよ。そんな風におもわんといてよ。」
「美百合」
立ち上がって、美百合は走って消えてしまった。
3ヶ月前なら、追いかけていただろう。
現世で、手繰り寄せた細すぎる縁。
前世からの縁に出会えば切れてしまう。
それでも、美百合は優しくて自分を押し殺したのがわかった。
能力がある美百合なら、惹かれた理由がわかっていたはずだ。
「糸埜、寝ようか?」
「二条」
二条は、私を抱き締めた。
「よく、頑張った。よく、頑張ったね。糸埜。誰も褒めてくれないなら、私が褒めてあげる。この先、何十年もこの痛みも苦しみも消えない。それでも、糸埜は今の妻をとったのだよ。辛かったら、私に話すんだよ。糸埜」
「二条」
私は、二条にしがみついて泣いた。もしもなどは、この世に存在しない。私は、初めから美百合ではない縁を引き寄せたのだ。
朝起きた瞬間から、泣いていた。
バレないように、気丈に振る舞った。
「ほな、また。三日月の皆さん」
「お気をつけて」
美百合は、二度と目を合わせなかった。
千切られる痛みを抱えながら帰宅した。
それから、半年は思うようにご飯を食べれなかった。
「三日月のもんが、そないガリガリに痩せてどないする!ふざけてるのか、糸埜」
私は、師匠に睨み付けられた。
「すみません。」
「能力のない能無しは、さっさっと子供を作れ。わかったか」
師匠に、蹴飛ばされた。
「わかっています。」
糸埜の痛みや苦しみが、身体中を駆け巡っていく。
【糸埜】
「はい」
【最後に、美百合のビジョンを見せてやろう】
あの方は、そう言って美百合さんのビジョンを見せる。
私は、ボロボロと泣き出す彼女を見つめていた。
僅かでも、能力のある者達は自分の気持ちを押さえて生きて行くのを知っている。
美百合(みゆり)もまた、それを知っていた。
「美百合(みゆり)って、今日だけでも呼んでくれへん?私も、糸埜って呼ばせてくれへん?」
「いいよ。」
髪を撫でてやりたかった。
「糸埜は、今の人と結婚したんは最近?」
「そうだね。3ヶ月になる。付き合ってからは、一年だった。」
「前世からの縁って、凄いんやね。私なんか、太刀打ちできへんわ」
「そんな事は…。」
本当は、美百合なのだ。
前世からの縁は、美百合なのだ。
スポットライトが、当たったように美百合だけが浮き上がった。
それから、ずっと千切れそうな程痛くて苦しくて、今だけでも、今だけでも、許して欲しかった。
「今だけでも、私を見て欲しいなんて、不倫女が思うことやね」
ニコって笑った目から涙が流れ落ちる。
「そんな事ないよ。美百合」
涙を拭ってやりたい手でビールを掴んで胃袋に流し込む。
私が引き寄せたせいで、美百合が苦しい想いをしたのだ。
まさか、会うとは思わなかった。
「でもね。私は、傷つけたくないから。苦しくても辛くても、頑張ってなくす。だから、ごめんね。今だけは、許して糸埜」
ボロボロと涙を流す美百合に頷いてあげる事しか出来なかった。
不倫は、悪だと罪だと思っていた。
でも、美百合に出会って知ったのだ。
前世からの濃くて太い縁の存在への気持ちに打ち勝つなど容易ではないのだ。
私一人が、頑張った所でどうにもならぬのだ。
「今日は、満月やね」
「本当だね。」
「糸埜、満月を見上げる日が、この先あったら、私の事思い出して欲しい。」
私が、口を開くよりも素早く美百合が言葉を発する。
「なーんや、冗談も伝わらんの?関西人やったら、せやな、思い出したろかしゃーなしやけどなってゆうてくれるで!それを、私がなんでやねんって突っ込むとこやんかぁー。何か、損したわ」
涙を堪えながら、饒舌に話す姿に心臓が痛くて苦しくて耐えられなかった。
「なんでやねん…」
私は、ポツリと言った。
「今ー?突っ込むとこあらへんかったし。それに、変な言い方やったよ。糸埜」
そう言って、笑った瞬間に涙がポタポタと流れ落ちた。
「美百合、ごめん。私と美百合は…。」
「やめてや。謝らんといて。何か私が、糸埜を困らせてるだけやないの。そんな風にゆわんといてよ。そんな風におもわんといてよ。」
「美百合」
立ち上がって、美百合は走って消えてしまった。
3ヶ月前なら、追いかけていただろう。
現世で、手繰り寄せた細すぎる縁。
前世からの縁に出会えば切れてしまう。
それでも、美百合は優しくて自分を押し殺したのがわかった。
能力がある美百合なら、惹かれた理由がわかっていたはずだ。
「糸埜、寝ようか?」
「二条」
二条は、私を抱き締めた。
「よく、頑張った。よく、頑張ったね。糸埜。誰も褒めてくれないなら、私が褒めてあげる。この先、何十年もこの痛みも苦しみも消えない。それでも、糸埜は今の妻をとったのだよ。辛かったら、私に話すんだよ。糸埜」
「二条」
私は、二条にしがみついて泣いた。もしもなどは、この世に存在しない。私は、初めから美百合ではない縁を引き寄せたのだ。
朝起きた瞬間から、泣いていた。
バレないように、気丈に振る舞った。
「ほな、また。三日月の皆さん」
「お気をつけて」
美百合は、二度と目を合わせなかった。
千切られる痛みを抱えながら帰宅した。
それから、半年は思うようにご飯を食べれなかった。
「三日月のもんが、そないガリガリに痩せてどないする!ふざけてるのか、糸埜」
私は、師匠に睨み付けられた。
「すみません。」
「能力のない能無しは、さっさっと子供を作れ。わかったか」
師匠に、蹴飛ばされた。
「わかっています。」
糸埜の痛みや苦しみが、身体中を駆け巡っていく。
【糸埜】
「はい」
【最後に、美百合のビジョンを見せてやろう】
あの方は、そう言って美百合さんのビジョンを見せる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?
渡邊 香梨
ファンタジー
コミックシーモア電子コミック大賞2025ノミネート! 11/30まで投票宜しくお願いします……!m(_ _)m
――小説3巻&コミックス1巻大好評発売中!――【旧題:聖女の姉ですが、国外逃亡します!~妹のお守りをするくらいなら、腹黒宰相サマと駆け落ちします!~】
12.20/05.02 ファンタジー小説ランキング1位有難うございます!
双子の妹ばかりを優先させる家族から離れて大学へ進学、待望の一人暮らしを始めた女子大生・十河怜菜(そがわ れいな)は、ある日突然、異世界へと召喚された。
召喚させたのは、双子の妹である舞菜(まな)で、召喚された先は、乙女ゲーム「蘇芳戦記」の中の世界。
国同士を繋ぐ「転移扉」を守護する「聖女」として、舞菜は召喚されたものの、守護魔力はともかく、聖女として国内貴族や各国上層部と、社交が出来るようなスキルも知識もなく、また、それを会得するための努力をするつもりもなかったために、日本にいた頃の様に、自分の代理(スペア)として、怜菜を同じ世界へと召喚させたのだ。
妹のお守りは、もうごめん――。
全てにおいて妹優先だった生活から、ようやく抜け出せたのに、再び妹のお守りなどと、冗談じゃない。
「宰相閣下、私と駆け落ちしましょう」
内心で激怒していた怜菜は、日本同様に、ここでも、妹の軛(くびき)から逃れるための算段を立て始めた――。
※ R15(キスよりちょっとだけ先)が入る章には☆を入れました。
【近況ボードに書籍化についてや、参考資料等掲載中です。宜しければそちらもご参照下さいませ】
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
天使の国のシャイニー
悠月かな(ゆづきかな)
ファンタジー
天使の国で生まれたシャイニーは翼と髪が虹色に輝く、不思議な力を持った天使。
しかし、臆病で寂しがり屋の男の子です。
名付け親のハーニーと離れるのが寂しくて、泣き続けるシャイニーを元気付けた、自信家だけど優しいフレーム。
性格は正反対ですが、2人はお互いを支え合う親友となります。
天使達の学びは、楽しく不思議な学び。
自分達の部屋やパーティー会場を作ったり、かくれんぼや、教師ラフィの百科事典から様々なものが飛び出してきたり…
楽しい学びに2人は、ワクワクしながら立派な天使に成長できるよう頑張ります。
しかし、フレームに不穏な影が忍び寄ります。
時折、聞こえる不気味な声…
そして、少しずつ変化する自分の心…フレームは戸惑います。
一方、シャイニーは不思議な力が開花していきます。
そして、比例するように徐々に逞しくなっていきます。
ある日、シャイニーは学びのかくれんぼの最中、不思議な扉に吸い込まれてしまいます。
扉の奥では、女の子が泣いていました。
声をかけてもシャイニーの声は聞こえません。
困り果てたシャイニーは、気付けば不思議な扉のあった通路に戻っていました。
シャイニーは、その女の子の事が頭から離れなくなりました。
そんな時、天使達が修業の旅に行く事になります。
5つの惑星から好きな惑星を選び、人間を守る修業の旅です。
シャイニーは、かくれんぼの最中に出会った女の子に会う為に地球を選びます。
シャイニーやフレームは無事に修業を終える事ができるのか…
天使長サビィや教師のラフィ、名付け親のハーニーは、特別な力を持つ2人の成長を心配しながらも温かく見守り応援しています。
シャイニーが成長するに従い、フレームと微妙に掛け違いが生じていきます。
シャイニーが、時には悩み苦しみ挫折をしながらも、立派な天使を目指す成長物語です。
シャイニーの成長を見守って頂けると嬉しいです。
小説家になろうさんとエブリスタさん、NOVEL DAYSさんでも投稿しています。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~
椿蛍
ファンタジー
【1章】
転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。
――そんなことってある?
私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。
彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。
時を止めて眠ること十年。
彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。
「どうやって生活していくつもりかな?」
「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」
「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」
――後悔するのは、旦那様たちですよ?
【2章】
「もう一度、君を妃に迎えたい」
今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。
再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?
――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね?
【3章】
『サーラちゃん、婚約おめでとう!』
私がリアムの婚約者!?
リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言!
ライバル認定された私。
妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの?
リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて――
【その他】
※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。
※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる