上 下
122 / 202
前野友作

何のために

しおりを挟む
糸埜(いとの)さんの言葉に、私は何の為に人で産まれたのかわからない気持ちになった。

「ここを貫く言葉(やいば)を出してしまったなら、すぐに謝るのです。後から、後悔したって意味はないのです。」

「その子のお母さんは何て言ったのですか?」

「疲れていたから、つい言ってしまったと言いました。しかし、そのついが取り返しのつかない事になるのを私は話しました。」

糸埜は、宮部さん、村井さん、伊納(いのう)さんを見つめた後に私を見た。

「昔、私が弟のように可愛がっている男がこう言いました。人はみんな、刃物を隠し持っているのだと…。私が、それは何かと尋ねたら彼はこう言いました。それは、言葉だよって。その刃物を誰もが持っている。だから、悪戯に口に出してはいけないのです。だから、私達には考える力があるのではないでしょうか?想像する力があるのではないのでしょうか?」

「だから、私達は言葉を選ばないといけないのですね。」

「そうですね。一字一句大切に話すべきです。言いすぎたなら、謝るべきです。」

糸埜は、荻野さんにキーホルダーを返す。

「村井さん、許さない事は、許すことよりも険しい道ですよ。自らも血を流しながら歩かねばなりません。それでもいいのならば、憎しみの炎を燃やし生きればいい。でも、その痛みを我慢する事が出来ないのならば許すしかありません。噛み砕いて、噛み砕いて、胃袋に流し込んで生きて行くしかないのです。」

「あの、お二人にいつか、会いに行きます。許せる日がきたら…。」

「お待ちしています。」

「宮部さんの雑誌。楽しみにしています。」

「はい、是非読んでくださいね。」

「それでは、帰りましょう」

「はい」

「失礼しました。」

荻野(おぎの)さんと前野さんは、残った。

私達三人は、伊納さんと村井さんの家から出た。

「宝珠(ほうじゅ)、宮部さんを送りましたら話をしましょうか?」

『巫女と話をするから、ついてきてくれるか?』

「予定って、巫女さんだったのですね!!」

『はい、そうですよ。』

「何だ、そうでしたか…」

「ホッとしましたか?」

「いえ、いえ、そんな事はありません。」

宮部さんは、うつむいた。

「わかりやすいですね。宮部さん」

「えっ?そんな事ないです」

宮部さんは、ブンブンと頭を振っていた。

糸埜は、後部座席をあける。

宮部さんは、後部座席に乗り込んだ。

糸埜は、車を出して宮部さんを送り届ける。

「あの、三日月さん」

『はい』

「肉体が戻ったら、約束」

『わかっていますよ。』

「後、早乙女さんのお手紙は仕上げておきます。」

『よろしくお願いします。』

「はい、では、必ず連絡してくださいね。」

『肉体が戻れば、必ず連絡しますよ。』

「はい。あの」

宮部さんは、潤んだ瞳で私を見つめる。

「私は、三日月家(みかづきけ)の方々にもっと関わって生きていきたいです。」

私は、糸埜の顔を見た。

「宮部さん、関わって下さい。私達とたくさん。そして、記事にしてくれたら嬉しいです」

『そうですね。こんな仕事がある事を世の中に広めて下さい。沢山の人に教えてあげて下さい。』

宮部さんは、私と糸埜の顔を交互に見つめる。

「私は、三日月家の皆さんを好きになりそうです。皆さんのお話が大好きです。皆さんの幽体のお話をたくさんの人に届けたいです。」

「是非、お願いします。」

『私からも、お願いします。』

宮部さんは、ニコッと微笑んだ。

「では、帰ります。お疲れさまでした。」

「宮部さん」

「はい?」

「念珠(ねんじゅ)さんと美条(びじょう)さんが、帰宅次第。宮部さんの器を直すので、神社に来ていただけますか?」

「はい、わかりました。」

『ゆっくりおやすみ下さい』

「甘いの食べますね。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

私と糸埜は、宮部さんが帰宅するのを見届けてから神社に戻ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最高で最強なふたり

麻木香豆
ホラー
※話を増やしました 子供の頃、山で滑落をした幼馴染同士の虹雨と由貴。 助けてもらった天狗様に助ける代わりに授けられた霊能力。それを使って地域の霊たちの治安を守り二人は地元では一躍人気に。 そんな二人は社会人になって再会。 霊能力を駆使して現代社会の闇と立ち向かう! 虹雨(こう) 霊視、除霊能力、軽い攻撃はできる。 見た目は黒ずくめのスーツにサングラスだがあくまでも見た目だけで普段はスウェット姿。 短気でキレやすいが気さくで人懐っこい。 由貴(ゆき) 霊視、霊を引きつける能力あり。 体が大きい割には気が小さく、おとなしいが除霊とビデオ撮影、編集となるとテンションが異常に高くなる。 天狗様 体と鼻がやけに大きいが容姿は天狗でなくて人間。甘いものが大好き。倉田には弱い。 しかし暴れるとまた一つ吹き飛ぶとかないとか。 倉田 天狗様が住む山の麓にある神社の僧侶でもあり、冠婚葬祭グループ会社社長。 190の大きな図体ですらっとしているが、昔とは違う? 天狗様の御付きのものだが、ほぼ保護者。 真津美帆子 真津探偵事務所所長。人妻。 天狗様が依頼した事件を2人に斡旋する。 虹雨を可愛がる。 息子は少し前まで幽霊が見えた。 茜部刑事 探偵事務所と警察のパイプがわりの刑事。 子供が5人もいる。 また機動隊で体型が良いがこれまたへこへこして残念な扱いを受ける。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

黒い聖域

久遠
現代文学
本格長編社会派小説です。 宗教界という、不可侵な世界の権力闘争の物語です。 最初は少し硬い感じですが、そこを抜けると息も吐かせぬスリリングで意外な展開の連続です。 森岡洋介、35歳。ITベンチャー企業『ウイニット』の起業に成功した、新進気鋭の経営者で資産家である。彼は辛い生い立ちを持ち、心に深い傷を負って生きて来た。その傷を癒し、再び生きる希望と活力を与えたのは、大学の四年間書生修行をした神村僧である。神村は、我が国最大級の仏教宗派『天真宗』の高僧で、京都大本山・本妙寺の執事長を務め、五十代にして、次期貫主の座に手の届くところにいる人物であった。ところが、本妙寺の現貫主が後継指名のないまま急逝してしまったため、後継者問題は、一転して泥沼の様相を呈し始めた。宗教の世界であればこそ、魑魅魍魎の暗闘が展開されることになったのである。森岡は大恩ある神村のため、智力を振り絞り、その財力を惜しみなく投じて謀を巡らし、神村擁立へ向け邁進する。しかし森岡の奮闘も、事態はしだいに混迷の色を深め、ついにはその矛先が森岡の身に……! お断り 『この作品は完全なるフィクションであり、作品中に登場する個人名、寺院名、企業名、団体名等々は、ごく一部の歴史上有名な名称以外、全くの架空のものです。したがって、実存及び現存する同名、同字のそれらとは一切関係が無いことを申し添えておきます。また、この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 他サイトにも掲載しています。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...