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前野友作

神社と加奈枝と加奈枝の死

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加奈枝が、嬉しそうに絵馬を書いている。

俺は、少しだけ戸惑っていた。

【加奈枝と結婚できますように、放したくない】

そう書いた絵馬を下げる。

次に、お願い事をした。

【加奈枝と結婚できますように…放したくない。】

桜を三周回って終わった。

お守りを買って帰った。

ずっと、嬉しそうにしていた。

早く、プロポーズしたい!!

きっと、加奈枝もそれを待っているのだ。

私は、強くそう思った。

「加奈枝、大丈夫?」

「大丈夫よ」

加奈枝と買い物をして、家に帰った。

突然、加奈枝が辛そうだったから…。

俺は、どうしたらいいかわからなかった。

さっきまで、あんなに楽しそうにしていたのに…。

やっぱり、俺が早くプロポーズして安心させてあげなければ…。

「じゃがいも、剥くよ」

「ありがとう」

加奈枝とキッチンで並んで、カレーを作る。

「調理実習してた生徒を思い出さない?」

「あぁ、わかるよ。不器用ながら頑張っているよね」

「友作さんは、生徒を生徒じゃない目で見た事なんかある?」

「嫌、ない。」

「前の学校でね。先生と生徒が付き合ってるのがわかった事があってね。」

加奈枝は、俺が剥いて渡した野菜を切って鍋にいれてる。

「結局、卒業して終わったんだけど…。先生もクビになってね。きっと、閉鎖された場所にいるから憧れと好きを勘違いしてたのかな?って」

「そうなんだな。」

「その子に会った時に、その子自身が私に行ってきたの!何だったのか今でも不思議だって。別れさせられて卒業して、一年も経たないうちに急に先生に興味がなくなったんだって。今は、同級生と付き合ってるんだって!結局、張りのある肉体には敵わないわよね」

「そこなのか?」

「そこよ」

フフフって、加奈枝が笑った顔をみてると安心した。

「煮込んでる間、向こうで待ってようか」

「うん」

俺は、加奈枝と隣同士並んで座る。

「はい、麦茶」

「ありがとう」

一緒にいるだけで、幸せだ。

「友作さん、男の人ってどうして若い人が好きなのかな?」

「今は、鍛えてる人もいるし。おばさん体型ってのが好きな人もいる、人それぞれだよ。」

「でも、若い人にいくひと多いわ。私の友人も若い男と不倫してるわ。だから、教師がそう見られたりするのかしらね」

「そうかもしれないね」

俺の肩に頭を置く、加奈枝とずっといたかった。

ペラペラとページが捲られる。

早乙女加奈枝の死と自分が誰かの代用品だった事を知った悲しみ。

あの神社での帰り泣いていたのは、俺じゃなかったんだ。

肌を重ねる時に、顔が見えないようにしていたのは、俺じゃなかったからだったんだ。

お骨を拾い終わって、雨の中。

ただ、ジッと待っていた。

俺も同じだ。

加奈枝が、死んだ事に凄く悲しんでなかった。

上條が目に入る。

円香を見つけた。

円香が、やってきた。

「送るよ」って、いつもながらに言ったんだ。

帰宅して、円香を加奈枝の代わりのようにした。

本当は、違ったのかもしれない。

優しくしたかったのに、出来なかった。

人間は、弱い……嫌、俺が弱いのだ。

とても、弱いのだ。

傷ついたから、俺は円香に同じ傷をつけたくなった。

誰かに共鳴する事を恋や愛と呼ぶのならば、俺は円香に同じ痛みや苦しみを感じて欲しい。

それが、俺にとっての愛なのだ。

カチ…カチ…カチ

【宮部さん、少しだけ離します】

私には、前野友作の気持ちが理解できた。

私も、今まさに同じ事を思ってる。

自分だけ、苦しいのは嫌。

三日月さんにも、苦しんで欲しい。

少しでも私の事で悩んで欲しい。

前野友作と私の思いが重なる。

どんな形でもいいから、自分を忘れないで欲しい。例え、終わりになってもあなたの特別でいたい。

ブワァーと風が吹いたように、一気にページが進んでいく。

パラパラとページが捲られていく。

伊納円香(いのうまどか)に変わった。

写真には、波紋のように黒が広がっていく。
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