上 下
113 / 202
早乙女加奈枝

辛いですね

しおりを挟む
私は、宮部さんの手をずっと握りしめていた。

宮部さんの鞄から、失礼してボイスレコーダーを取り出した。

幽体は、便利です。

念じたら、出てきてくれる。

私は、スイッチを押す。

『いつか、宮部さんがこれを見つけたら記事にしてくれませんか?どうして、私が?どうして、俺が?そんな想いを抱える人間の一人でも、救えたなら私は、嬉しく思います。』

私は、宮部さんの頭を左手で優しく撫でる。

『宮部さんと私は、現世で生まれた縁でした。それは、何と脆いことでしょうね。まだ、出来たばかりの新しい縁でした。五木結斗が、私を導き。私が自ら引き寄せた縁。それが、貴女と私です。』

私は、宮部さんを見ながら涙を流す。

『貴女の新しい縁が、見つかりましたよ。それも、前世からの縁です。私とは、違いました。その方との縁の方がとても濃いです。化け物になり知りました。新しい縁は、切れやすく脆い事を…。私と貴女のように、ただ辛く痛く苦しい想いをするだけなのですね。縁がなかった。私は、その言葉がずっと大嫌いでした。』

そう言って、宮部さんの頬を撫でる。

『私が出会ったある占い師は、不妊に悩む夫婦に縁がなかったと言い切った。私は、彼と言い合いになりました。縁がないなら、手繰りよせればいいじゃないか、ずっと私はそう思っていました。ですが、化け物になり知りました。縁がないものを手繰りよせ、現世で繋いだとしても、すぐに切られてしまう。いつか、彼の話を聞いていただけますか?宮部さん』

私は、宮部さんの手を軽く握りしめる。

『手繰りよせたい縁は、皆さんそれぞれ違います。私は、それは悪い事だと思っていません。でも、その事で苦しめられる皆さんにも会いました。これは、三日月の書物で見つけた話です。苦しい人程、前世の縁がより濃いらしいです。』

私は、涙がとめられなくなる。

『宮部さん、私は苦しむ為に貴女との縁を手繰りよせてしまったのでしょうか?そのせいで、宮部さんまで、苦しめてしまった。本当なら、宮部さんは苦しまなくてよかったのです。私と知り合って協力しても、何も感じなかったのです。なのに、私が宮部さんの縁を手繰りよせた。』

私は、宮部さんの髪を優しく撫でる。
宮部さんは、私の手を優しく握り返してくる。

『宮部さんは、察しがいい人ですね。私が、見つけて引き寄せた細い縁を見つけてくれた。自分の元にも引き寄せてくれた。だから、苦しんだのです。私は、嫌だった。宮部さんとの縁が、前世との濃い縁と出会い断ち切られる。それを恐れた私は、自ら断ち切りました。苦しませて、すみませんでした。でも、いつかきっと宮部さんにもわかってもらえる。宮部さんは、察しがいい人ですから』

私は、宮部さんの手を自分の頬に当ててしまう。

『貴女が思うより、私はいい人ではありません。私も貴女と同じ。いえ、貴女より卑しい人間。化け物ですね。』

手の甲にキスしようと思ってやめた。

『縁がないと嘆いてる誰かに届けてあげて欲しいです。現世でのこの苦しみは、前世との縁が濃いせいだと…。それを、断ち切るのは容易な事ではありません。だから、少しでも自分が欲しい形を見失わずに生きていて欲しい。伴侶がいなくとも、子を授かれなくても、友達がいなくても、同性しか愛せなくても、骨しか愛せなくても、それでも生きている事は、素晴らしい事を宮部さんが伝えてくれませんか?人との違いに嘆き苦しむ必要はないのです。』

私は、宮部さんの寝顔を見つめていた。

『叶わなくとも、愛しいと思えるものに出会えただけで、産まれてきた価値があるのですよ。叶わない事は不幸せではありません。手に入らない事は、不幸せではありません。愛してると心を揺さぶられる何かに出会えない事が不幸せなのです。私は、そうだと思っています。人でも、動物でも、幽体でも、物でも、漫画の主人公でも、小説の主人公でも、愛してると心を揺さぶられる何かに出会える事こそが幸せなのです。』

私は、宮部さんの頬を優しく撫でる。

『宮部さんは、オカルト記事を愛していましたね。素敵な人生です。誰にも遠慮などせずに生きて行ってください。そして、いつか必ず私の取材に来てくださいね。お待ちしていますから…。』

私は、そう言って笑って宮部さんを見つめた。

『愛していました。宮部さん』

ボイスレコーダーを触(ふ)れずに止めて、鞄の中に閉まった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裸の王様社会🌟

鏡子 (きょうこ)
エッセイ・ノンフィクション
そんなつもりじゃなかったのに、こんな展開になっちゃいました。 普通の主婦が、ネットでサイバー被害にあい、相手を突き止めようとしたら、C I Aにたどり着きました。 レオナルド・ダ・ヴィンチの魂(原告)による訴えをもとに、神様に指示を受けながら、サイバー被害の探偵をします。 ◎詳細 『真理の扉を開く時』の件は、解決しました。 妨害ではなかったようです。 お騒がせしました。 って書いた後、色々な問題が発生… やっぱり、妨害だったかも? 折角なので、ネットを通じて体験した不可思議なことを綴ります。 綴っている途中、嫌がらせに合いました。 そのことが、功を奏し、アイルワースのモナ・リザが ルーブルのモナ・リザ盗難時の贋作であるとの、証拠が掴めました。 2019.5.8 エッセイ→ミステリー部門に、登録し直しました。 タイトルは、「こちらアルファ“ポリス”サイバー犯罪捜査官」にしました。 ↓↓↓↓ 2019.5.19 「普通のおばさんが、C I Aに目をつけられてしまいました」に、 タイトル変更しました。 ↓↓↓↓ 2019.5.22 度々のタイトル変更、すみません。 タイトルを 「こちらアルファ“ポリス”裸の王様社会のあり方を見直す」にしました。 ◎ 2021.01.24 カテゴリーを、経済・企業から、ミステリーに変更します。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)
ファンタジー
『人殺しでも、幸せになれるのか』  魔王軍に立ち向かうために、人々が『勇者』となって旅立つ時代。そんな中で、刀のみを携えた白い髪の少年が一人。  少年の名は『白(しろ)』。白も人々と同じように『勇者』となって旅に出るただの少年だった。しかし、勇者となって数日、白は王様に突如死刑を言い渡されてしまう!  白はたまらず王城から逃げ出したが、今度は白を育ててくれたジャンおじさんが人質に! 途方に暮れる中、白はどこからどう見ても美少女な金髪の魔法使い、サナと出会い……?  信じられるのは、携えた刀と己が仲間のみ! 刀一本で魔法世界を駆け抜けろ!  忍び寄る運命、そして白に絡み付く『人殺し』の重罪。迫り来る数々の強敵を乗り越え、白は幸せを掴むことができるのか?!  和風なのか洋風なのか近代なのかよく分からない英雄譚、開幕ッ! *******  今後数年に渡って展開していく『Project:Wit』、その一つ目の物語、『もしも願いが叶うなら』は、ギャグ1.5割、シリアス……8.5割のバトルファンタジーです。(最近はSFしてたりもします)  後々オムニバス形式で繋がってくる他の物語とも、まあほんの少しぐらい接点はあります。  地の文よりセリフ多めです。おそらく多分絶対読みやすい文体なんじゃないかなと思います。  ですが「「一部グロ要素アリ」」  となっております。  不定期更新です、予めご了承ください。 *物語の感想とか来たらめちゃくちゃ喜びます、是非感想をお寄せください。 *本小説は、一人称切り替え視点というかなり特殊な視点を取っています。諸事情によりたまに三人称にもなります。つまり視点が結構コロコロ変わります。 『*』が出てきたら視点(○人称)が変わり、『◆』で区切られている時は時間(時間軸)が、『◇』で区切られている時は場所が前の文から大きく(もしくはビミョーに)変わっていると言うことを念頭に置いて読み進めることをおすすめします。  最後まで読んだ人に、『面白かった!!!!』と言わせてみせる。そんな、きっと面白いであろう物語です。是非ご一読ください。

けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。 *旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。

天使の国のシャイニー

悠月かな(ゆづきかな)
ファンタジー
天使の国で生まれたシャイニーは翼と髪が虹色に輝く、不思議な力を持った天使。 しかし、臆病で寂しがり屋の男の子です。 名付け親のハーニーと離れるのが寂しくて、泣き続けるシャイニーを元気付けた、自信家だけど優しいフレーム。 性格は正反対ですが、2人はお互いを支え合う親友となります。 天使達の学びは、楽しく不思議な学び。 自分達の部屋やパーティー会場を作ったり、かくれんぼや、教師ラフィの百科事典から様々なものが飛び出してきたり… 楽しい学びに2人は、ワクワクしながら立派な天使に成長できるよう頑張ります。 しかし、フレームに不穏な影が忍び寄ります。 時折、聞こえる不気味な声… そして、少しずつ変化する自分の心…フレームは戸惑います。 一方、シャイニーは不思議な力が開花していきます。 そして、比例するように徐々に逞しくなっていきます。 ある日、シャイニーは学びのかくれんぼの最中、不思議な扉に吸い込まれてしまいます。 扉の奥では、女の子が泣いていました。 声をかけてもシャイニーの声は聞こえません。 困り果てたシャイニーは、気付けば不思議な扉のあった通路に戻っていました。 シャイニーは、その女の子の事が頭から離れなくなりました。 そんな時、天使達が修業の旅に行く事になります。 5つの惑星から好きな惑星を選び、人間を守る修業の旅です。 シャイニーは、かくれんぼの最中に出会った女の子に会う為に地球を選びます。 シャイニーやフレームは無事に修業を終える事ができるのか… 天使長サビィや教師のラフィ、名付け親のハーニーは、特別な力を持つ2人の成長を心配しながらも温かく見守り応援しています。 シャイニーが成長するに従い、フレームと微妙に掛け違いが生じていきます。 シャイニーが、時には悩み苦しみ挫折をしながらも、立派な天使を目指す成長物語です。 シャイニーの成長を見守って頂けると嬉しいです。 小説家になろうさんとエブリスタさん、NOVEL DAYSさんでも投稿しています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

カキツバタが咲く頃に〜

セリア
恋愛
皆さん『死』というものをどんなものか理解していますか?最近の人達は簡単に死ねや暴言、相手を傷つける言葉を言います。それが言われた人にどのような効果をもたらすか考えて使っていますか?たかが言葉ですがそれにはものすごい力があります。ある人が言っていました。言葉は人を癒すこともあれば傷つけ殺してしまう恐ろしいものです。だからこそ使い方を間違えてはいけません。つまり何を言いたいかって?それはこの小説を読んでみないと分かりません。この小説のテーマは『言葉』です。それさえ抑えとけばこの小説の説明は不要でしょう。 では皆様を少し不思議な世界へご招待しましょう。安心してください。これはホラーものではありませんので〜

処理中です...