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早乙女加奈枝
DAY7 放れたくない
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私は、神社にやってきた。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
案内人さんは、珍しく私と目を合わせてくれなかった。
「三日月さんは?」
「いますよ。もう、準備は出来ております。」
「ありがとうございます。」
私は、頭を下げた。
「宮部さん、おはようございます。」
「糸埜(いとの)さん、おはようございます。」
「では、行きましょうか」
「はい」
私は、糸埜さんと一緒に行く。
「おはよう、宝珠」
『おはよう、糸埜』
三日月さんは、昨日よりも穏やかだった。
「おはようございます。三日月さん」
『昨日は、すまなかった。』
三日月さんは、私と糸埜さんに頭を下げた。
「いえ、いいんですよ。気にしないで下さい。」
「宝珠、村井さんの件は早めにした方がいいですよ。」
『わかってる』
「じゃあ、始めようか」
私は、いつもの布に座る。
「あの」
「はい」
「やっぱり、私を向こうに導いてくれるのは三日月さんがいいです。最後なら、なおさら三日月さんに触(ふ)れてもらいたい。」
私は、何と卑しい人間なのだろうか…。
これが、最後なら三日月宝珠(みかづきほうじゅ)に触(ふ)れられたい。
どうしても、三日月さんの手に包まれながらビジョンにはいりたい。
戻って来るときの、三日月さんの息を感じたい。
なんて、卑しい心。
私は、気づけば泣いていた。
「糸埜、一度だけなら構いませんよ。」
私は、その声の主を見つめた。
「ですが、宮部さんの器に傷がついてしまいます。」
「そちらは、念珠(ねんじゅ)と美条(びじょう)が帰宅したら修復させます。ですから、最後の彼女の望みを叶えてあげなさい。」
「わかりました。巫女様」
糸埜さんは、そう言って頭を下げた。
巫女さんは、消えていった。
「それでは、宝珠始めましょうか?」
糸埜さんは、場所を変わる。
三日月さんは、布に乗らないように私をギリギリまで来なさいと指示をした。
久しぶりの三日月さんだ。
幽体であっても、三日月さんなのだ。
『宮部さん、それでは7日目。最終日を始めましょう』
「はい」
『今回は、早乙女加奈枝さんと前野友作さんです。二人のビジョンに入る為、かなりの体力を消耗します。早乙女加奈枝のビジョンが終わった後にいったんもどるかは宮部さんが決めて下さい。全て終わった後は、いつもより疲労感があります。』
「はい」
『早乙女加奈枝さんのご両親は、もうこの街にはいないので、出来るだけ長く彼女の言葉を聞いてきて欲しいのです。よろしいですか?』
「はい」
三日月さんは、私の涙を優しく拭ってくれる。
『今から泣いていては、いけませんよ。宮部さん』
「はい、すみません。」
三日月さんが、触(ふ)れるだけで嬉しい。
『それでは、始めますよ』
「はい」
『早乙女加奈枝と前野友作の元へ、いってらっしゃい』
そう言って、三日月さんが私の後頭部に触(ふ)れた。
ドクン……。
私の心臓は、ドキドキが止まらない。
カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…
.
.
.
.
.
【歩を愛してる】
【歩しかいらない】
【でも、友作を…】
「はっ…」
「どうした?加奈枝」
私は、自分がどれ程、卑しい人間なのかを強く感じた。
「可愛いよ、加奈枝。チュッ」
「もう、寝起きだから」
「ハハッ、歯磨きだっけ?」
「そうよ」
私は、立ち上がって、歯を磨く。
歯を磨きながら、私は私の顔を鏡で見ている。
私は、教師でありながら何て下品な人間なのだ。
最低よ、私は、最低。
だけど、幸せなのよ。
だから、どうしようも出来ないのよ。
「加奈枝、コーヒー飲む?」
私は、歯磨きを終えて頷いた。
もし、学校にバレたら?
もし…
もし…
そんな事よりも、この日々を選んでしまう私は、考えの浅いどうしようもない醜い人間。
それでも、ぶら下がって、しがみついて、この場所を、彼の隣を渡したくないの。
卑しい人間だとしても…
例え、誰かにこの関係を見つかり蔑まれたとしても…
私は、それでもこの手に触(ふ)れられていたい
【私は、彼女の気持ちがよくわかる。私も、卑しい人間。彼の手に触(ふ)れられるなら、どんな事でもいい。】
カチ…カチ…カチ…カチ…
【宮部さん、もう少し繋げますよ】
「おはようございます。」
「おはようございます。」
案内人さんは、珍しく私と目を合わせてくれなかった。
「三日月さんは?」
「いますよ。もう、準備は出来ております。」
「ありがとうございます。」
私は、頭を下げた。
「宮部さん、おはようございます。」
「糸埜(いとの)さん、おはようございます。」
「では、行きましょうか」
「はい」
私は、糸埜さんと一緒に行く。
「おはよう、宝珠」
『おはよう、糸埜』
三日月さんは、昨日よりも穏やかだった。
「おはようございます。三日月さん」
『昨日は、すまなかった。』
三日月さんは、私と糸埜さんに頭を下げた。
「いえ、いいんですよ。気にしないで下さい。」
「宝珠、村井さんの件は早めにした方がいいですよ。」
『わかってる』
「じゃあ、始めようか」
私は、いつもの布に座る。
「あの」
「はい」
「やっぱり、私を向こうに導いてくれるのは三日月さんがいいです。最後なら、なおさら三日月さんに触(ふ)れてもらいたい。」
私は、何と卑しい人間なのだろうか…。
これが、最後なら三日月宝珠(みかづきほうじゅ)に触(ふ)れられたい。
どうしても、三日月さんの手に包まれながらビジョンにはいりたい。
戻って来るときの、三日月さんの息を感じたい。
なんて、卑しい心。
私は、気づけば泣いていた。
「糸埜、一度だけなら構いませんよ。」
私は、その声の主を見つめた。
「ですが、宮部さんの器に傷がついてしまいます。」
「そちらは、念珠(ねんじゅ)と美条(びじょう)が帰宅したら修復させます。ですから、最後の彼女の望みを叶えてあげなさい。」
「わかりました。巫女様」
糸埜さんは、そう言って頭を下げた。
巫女さんは、消えていった。
「それでは、宝珠始めましょうか?」
糸埜さんは、場所を変わる。
三日月さんは、布に乗らないように私をギリギリまで来なさいと指示をした。
久しぶりの三日月さんだ。
幽体であっても、三日月さんなのだ。
『宮部さん、それでは7日目。最終日を始めましょう』
「はい」
『今回は、早乙女加奈枝さんと前野友作さんです。二人のビジョンに入る為、かなりの体力を消耗します。早乙女加奈枝のビジョンが終わった後にいったんもどるかは宮部さんが決めて下さい。全て終わった後は、いつもより疲労感があります。』
「はい」
『早乙女加奈枝さんのご両親は、もうこの街にはいないので、出来るだけ長く彼女の言葉を聞いてきて欲しいのです。よろしいですか?』
「はい」
三日月さんは、私の涙を優しく拭ってくれる。
『今から泣いていては、いけませんよ。宮部さん』
「はい、すみません。」
三日月さんが、触(ふ)れるだけで嬉しい。
『それでは、始めますよ』
「はい」
『早乙女加奈枝と前野友作の元へ、いってらっしゃい』
そう言って、三日月さんが私の後頭部に触(ふ)れた。
ドクン……。
私の心臓は、ドキドキが止まらない。
カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…
.
.
.
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.
【歩を愛してる】
【歩しかいらない】
【でも、友作を…】
「はっ…」
「どうした?加奈枝」
私は、自分がどれ程、卑しい人間なのかを強く感じた。
「可愛いよ、加奈枝。チュッ」
「もう、寝起きだから」
「ハハッ、歯磨きだっけ?」
「そうよ」
私は、立ち上がって、歯を磨く。
歯を磨きながら、私は私の顔を鏡で見ている。
私は、教師でありながら何て下品な人間なのだ。
最低よ、私は、最低。
だけど、幸せなのよ。
だから、どうしようも出来ないのよ。
「加奈枝、コーヒー飲む?」
私は、歯磨きを終えて頷いた。
もし、学校にバレたら?
もし…
もし…
そんな事よりも、この日々を選んでしまう私は、考えの浅いどうしようもない醜い人間。
それでも、ぶら下がって、しがみついて、この場所を、彼の隣を渡したくないの。
卑しい人間だとしても…
例え、誰かにこの関係を見つかり蔑まれたとしても…
私は、それでもこの手に触(ふ)れられていたい
【私は、彼女の気持ちがよくわかる。私も、卑しい人間。彼の手に触(ふ)れられるなら、どんな事でもいい。】
カチ…カチ…カチ…カチ…
【宮部さん、もう少し繋げますよ】
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