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苛立ちと悲しみと憎しみと愛

鍵のため

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「まさか、宝珠。鍵となるのですか!その為に、あの方に力をいただいたのですか?」

喜与恵(きよえ)は、巫女と私の傍に来た。

私は、喜与恵を見つめる。

「私と喜与恵も、覚悟を決めましょう。」

『封印されるのは、こちらではなくあちらをします。なので、二人は無事ですよ』

「宝珠、私を連れて行かないのですか?」

『鍵になれば、契約は終わる。喜与恵には、すぐに運命が動き出す。新しい人が、現れますよ。』

「そんな人、いりません。それならば、私と肌を重ね一つになって下さい。」

「喜与恵も、鍵になるのか?」

「勿論です。」

『それは、必要ない。私は、誰も連れてなど行かぬよ』

私は、立ち上がった。

「宝珠、疲労が溜まってるのですね?」

『幽体は、疲れないと思っていました。』

「力を使えば、どんな形のものも疲れますよ。喜与恵、宝珠を休ませてあげなさい。」

『はい』

「あの部屋に、連れて行きなさい。」

「わかりました。」

喜与恵は、巫女に頭を下げる。

「喜与恵、愛するものがやりたい事を尊重する事も、また愛ですよ。」

「はい」

喜与恵は、部屋を出て歩きだした。

喜与恵の部屋の隣にある部屋を開ける。

「どうぞ」

一面を黄金色(こがねいろ)が包んでいる。

『はぁー。幸せだ。』

「疲れがとれるのですね。」

『あぁ、何故かな?』

「わかりません。あの方や巫女や私も利用します。化け物には、幸せを感じるらしいです。」

『喜与恵』

私は、喜与恵の袴を脱がす。

「宝珠、ダメです。」

『そのまま、抱き合うのは駄目だとは書いていなかった。一つには、ならないから。』

「有里(ありさと)に、抱かれたのですね。それも、さっき。皆の前でですか?嘘をついたのですね?」

喜与恵に、見つめられる。

『幽体のビジョンを勝手に見るなんて、やってる事が卑猥だ。』

私は、喜与恵の腕を振り払った。

「そのビジョンを書き換えたら、怒りますか?」

『喜与恵、馬鹿な事を言うな。』

「ビジョンは、変えてはいけないとは書いていませんでしたよ。私と宝珠は、そうなれぬのです。せめて、有里(ありさと)を私に書き換えていただけませんか?」

『喜与恵、そんな事をした事はない。一緒に眠れるだけで充分だよ。すまない。』

私は、喜与恵の袴を直した。

「着物を着替えてきますね」

『ああ、待っているよ』

ビジョンを全部喜与恵に、書き換えれたらどれだけいいだろうか…

『宝珠も魂になってるのか、はぁ、はぁ、はぁ。宝珠の師匠が、俺に力を分けてくれた。』

私は、糸埜(いとの)の背中に触(ふ)れた。

助けて欲しかった。

『俺は、誰にも見えぬ。はぁ。幽体の宝珠との繋がりは最高だな。はぁ、はぁ』

生ぬるい息が、かかった。

『師匠ぉぉぉ!』

あいつが、私をまた侮辱した。

愛した女(ひと)の前で、私を…

『うっっっ。あぁぁぁぁぁあ』

私は、その場に膝まづいた。

中に、奴がいるのだ。

それは、肉体を通していた時よりもリアルで、気持ちが悪くて

耳元にあたるあいつの息の感触とあの声が、こびりついて離れない。

「宝珠、どうされました?」

喜与恵は、寝巻きの着物に着替えてはいってきた。

「大丈夫です。私が、います。」

後ろから私を抱き締めて、おでこに手を当てる。

「宝珠、私を感じて下さい。」

ボトボトと涙が流れてくる。

『はぁはぁはぁ。宝珠。愛しています。私を感じて下さい』

さっきの映像が、喜与恵に変わった。

バタンッ…

喜与恵は、倒れた。

私は、涙を一筋流しながら喜与恵を見つめていた。

『喜与恵、大丈夫か?』

涙で、視界が滲んでいく。

私は、喜与恵の頬に手を当てる。

喜与恵は、何も話さない。

息をしているのは、感じる。

力を使いすぎて、意識を失ったのだろうか?

喜与恵に、何が起きているのかわからない。

『喜与恵、大丈夫?』

扉が開いて、現れた人を私は見つめていた。

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