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冴草健斗

会いに行きます。

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冴草健斗さんは、三日月さんから離れた。

『きちんと、お別れをします。三日月先生』

先程までの想いは、抱えていなかった。

犯人の身勝手さで、奪われた命。

生きていたかった気持ち。

「行きましょうか」

『はい』

冴草健斗さんは、三日月さんを見ながら笑っている。

『三日月先生に、れられたあの日ね。俺、自分が生きてるのかと思ったんだよ。』

「そう思われる方は、結構おられますよ。」

『やっぱり!だって、普通に抱き締められたりも出来るって変な感じするでしょ?』

「そうですね」

『三日月先生、俺ね。結斗から色々聞いてるよ。』

「そうですか」

『三日月先生には、幸せになって欲しいんだ。』

その言葉に、私は三日月さんを見つめていた。

「私は、とても幸せですよ」

『まだ、足りないでしょ?もっと、幸せになって欲しいんだよ。三日月先生、生きてよ!これからも、たくさんの魂を救ってあげてよ。』

「もう、充分ですよ。私がいなくても、三日月のものがいますから…。」

『駄目だよ』

冴草健斗さんは、首を横に振った。

赤信号で止まった三日月さんは、冴草健斗さんを見つめる。

『三日月先生みたいに、幽体を心の底から愛してくれる霊能者はいないよ。だから、三日月先生は生きなきゃ駄目だよ。』

三日月さんは、何も言わずに車を走らせる。

三日月さんの人生は、どんなのだったのだろうか?

能力者として産まれて生きてきて、どんな気持ちを抱えてこれまで生きてきたのだろうか?

鎖のように重く。あれは、三日月さんにとっての愛だったんじゃないかって思った。

『ついたよ。もうすぐ、現れる。』

冴草健斗さんは、ニコニコ顔で車を降りた。

『来た』

花が咲き乱れるように、パァーと明るくなったのを感じた。

「こんにちは」

「こんにちは」

私は、浜井凌平さんに手紙を差し出した。

「これは…?」

「冴草健斗さんからのお手紙です。」

「そんなもの、あるはずないじゃないですか!!僕を馬鹿にしてるんですか」

私は、手紙を突き返された。

三日月さんは、私の目を見て頷いた。

私の肩に、冴草健斗さんと手を当てた。

「凌平へ。凌平に言い忘れた事がある。勝手に猫を飼ってしまった。行けそうにないから、引き取りにいってくれない?凌平が、犯人に殴られなくてよかったって思ってる。幸せだったよ。俺は、この先もずっとずっと凌平を愛してる。最後までいれなくてごめんな。健斗」

立ち去ろうとした浜井さんが、足を止めて振り返った。

「健斗さんの声、なぜ貴女がだせるのですか?」

「言葉を伝えにきたからです。」

浜井さんは、涙をポロポロ流した。

「僕は、健斗さんを裏切ってます。健斗さん以外の相手を好きになってます。」

冴草健斗は、首を横に振る。

「そんな事を冴草さんは、気にしていませんよ。」

「嘘だ!僕は、約束したんだ。前の日に、健斗さんとずっといるからって、だから…だから」

三日月さんは、浜井さんの前に立った。

「生きているものは、叶えられなかった約束に縛られる。そんなものは、亡くなった方を縛りつけるだけだ。」

「そんな事ない。僕は、健斗さんを…」

「その愛が、足枷になっているかも知れないと考えた事はないのですか?」

浜井さんは、涙を流した。

「健斗さんの為だって」

「お互いにとって、よくないですよ。」

「でも、僕は裏切ってる。ずっと、裏切ってる。だから、申し訳ない。」

浜井さんの言葉に、三日月さんはいつもの言葉を投げ掛ける。

「亡くなった人は、愛をずっと贈っているんです。何故?受け取ろうとしないのですか?受け取れば、謝罪や怒りなど無意味な事を知るのですよ。」

「えっ?」

「では、失礼します。」

そう言って、右手を浜井さんの後頭部に持っていく。

ドクン……

とうとう浜井さんと冴草さんの、本当のお別れがやってきてしまった。
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