不思議な桜が繋いだ縁【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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三日月のもの達

やはり湧き出る気持ち

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美佐埜みさのさんが、いなくなって私は喜与恵きよえと片付けを再開していた。

「喜与恵」

「何ですか?宝珠さん」

「袴が綺麗だな」

私は、抱き締めたくなった気持ちを押さえてそう言った。

「先程、濡れましたので」

「そうだな」

喜与恵を押し倒してしまいたい。

あの日から、ずっと…

「手当てのおまじないを覚えているか?」

「はい。心の傷の直し方ですね」

「喜与恵が、私に教えたものだ。」

「はい」

「私は、吉瀬ユーリに教えた。」

「はい」

「そして、今生きてる人間にも教えている」

「そうですか、素晴らしい事ですよ」

喜与恵は、満面の笑みで笑った。

「嫌ではないのか?」

「何故でしょうか?」

「私との大切な思い出を使うなんてと思ったりしなかったか?」

「そんな事を思いませんよ。魂を救うのが、宝珠さんの役目なのですから」

「宝珠でいい。喜与恵の方が、5つも上だ。」

私は、そう言って布を畳終えた。

「宝珠。今日は、帰宅するのですよね?」

「ああ、そのつもりだ。」

「それなら、晩御飯作ってあげますよ。」

「ありがとう。その前に、真理亜の回復を見て帰るから」

美佐埜さんの健気だという言葉に、胸が締め付けられる。

「では、私は、キッチンに行って参ります」

「喜与恵」

反射的に喜与恵の手を握りしめていた。

「宝珠、どうしましたか?」

「そっけないフリをするのは、ワザとなのか?」

「どうしたのですか?先程、話しはすみましたよね?私達は、支え会う関係にまた戻ったのです。」

「美佐埜さんから聞いたせいで、閉じ込めようとした喜与恵への想いがまたあふれてとめられぬ。ならば、消せ」

「宝珠」

「私の中から、喜与恵への想いを消してくれ」

「出来ません」

「出来ぬわけないだろう?やり方は、わかっているはずだ。」

喜与恵の手が、震えている。

喜与恵の体には、あの方と巫女の血が納められている。

あの方とは、ここを守る神のような存在である。

「あの方に頼んで、やっていただきます。私が、やるのは嫌です。」

私は、ボロボロ泣き出す喜与恵を引き寄せた。

「喜与恵、すまない。こうでもしなければ、喜与恵を私は…。」

「言わなくてもわかっています。」

「喜与恵も、あの方に頼んで消してもらいなさい。」

「嫌です。」

「しかし、我慢するのは辛いだろう?」

私の言葉に、喜与恵は私から離れて真っ赤な目で私を見つめた。

「辛いんです。痛いんです。苦しいんです。でも、この気持ちを消して宝珠以外の人の元へ心が動くなんて嫌なんです。何故ですか?報われない恋を宝珠にしている。私は、可哀想ですか?そんなの宝珠の勝手な気持ちではないですか?宝珠を抱きたい、キスしたい。それをグッと我慢して、ただ傍にいる。それだけで、私は幸せなのです。何故、それが貴方には分からぬのですか?」

喜与恵は、膝からその場に崩れ落ちた。

そうだ。誰が言ったのだ?

報われない恋が、可哀想だと…。片想いが可哀想だと…。

私は、喜与恵の両肩を擦った。

「すまない。すまない。」

「愛せぬのに、優しくしないで下さい。私は、宝珠にお使いし、心を宝珠の為に燃やす。それだけが、生き甲斐で幸せなのです。例え、宝珠がこの世界の塵となって消えてしまっても、一生貴方を愛するのです。その為に、私は人であることをやめたのです。私は、まだ人であった15年前だって不幸せな日などなかったですよ。どうして、成就じょうじゅしなければ不幸だと決めつけるのですか?」

喜与恵は、私の胸に手を当てる。

「貴方が、愛してくれた時が少なからずあったと知れた事が嬉しかった。私は、報われなくても貴方が笑いかけるだけで幸せなんです。今だって、これからだって。そんな気持ちを消させないで下さい。お願いです。宝珠」

「すまなかった。」

私は、喜与恵の手を握りしめた。

私は、愚かな人間だ。

れ合えば、その先に進みたくなる。

それは、欲にまみれた人間だからではないか…。

喜与恵は、違う。

私とキスをしても、もっとなどいらぬのだ。

だから、この恋が報われなくとも幸せなのだ。



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