上 下
63 / 202
三日月さんの見せるビジョン

見えない心の傷

しおりを挟む
『三日月さん、これは何?心が、ポカポカするよ』

『よかったですね。それが、見えない傷の治し方です。』

『俺は、愛する人がいなかったし、家族もいなかった。それでも、自分でこうやって出来たのですね』

『皆さん、やり方は違うかもしれませんが…。私は、こうやって治す方法を教わりました。』

吉瀬さんは、泣いている。

『自分の軸は、幼い頃に両親によって作られると昔聞いた事があります。でもね、その軸を私も持っていないのです。だから、自分で自分を慰める方法も癒す方法も知らなかった。』

三日月さんは、吉瀬さんの頭を撫でる。

『吉瀬さんは、構ってちゃんでも、悲劇のヒロインでもありませんよ。ただ、誰かに理解されたかっただけです。それを、安易な言葉で傷付けたのです。構ってちゃんと言えば終わりに出来る世の中がおかしいのです。』

三日月さんは、吉瀬さんの涙を拭っている。

『簡単に便利なツールで、指一本で繋がれる。それは、世界中の人間とです。だから、皆、人間の価値を無下にしがちです。たった一言の言葉の重みにも気づかないのです。構ってちゃんでいいじゃないですか!明日から、私も怨み節を投稿しましょうか?』

三日月さんは、そう言って笑った。

『怨み節は、やめましょう。ちなみに、どんなのですか?』

『幽体が、成仏させろと言ってきてウザイ、払っても消えないからめんどくさい、勝手に会いにこられてダルイとかですか?』

『それ、オカルトで気に入られそうですよ』

三日月さんは、吉瀬さんを引き寄せた。

『私は、沢山の幽体に会いました。しかし、ここ一年は、ネットの案件が増えました。不妊で辛くて掲示板でお喋りしていた主婦が飛び降りました。彼女もまた不妊不妊うるさい、構ってちゃん、旦那に相手されとけババアって言われたと泣いていました。皆さん、清い魂でしてね。繊細なんです。飴細工みたいな器でね。出会った時には、砕けてましてね。』

吉瀬さんは、髪を撫でられてる。

『同性愛者でもあったんですよね?』

吉瀬さんは、三日月さんを見つめている。

『わかるんですか?』

『はい。母親の売春のトラウマからそうなったビジョンが流れてきました。辛かったですね。理解されなかったんでしょ?』

『はい。そうですね』

『こんな風にされるのが、私ですみません。こんな、おじさんで』

吉瀬さんは、首を横に振った。

『俺は、三日月さんみたいな綺麗な人に最後に会えてよかったですよ。』

『それなら、よかったです。』

『受け入れてくれてたと思った友達が影でキモいって言ってたんですよ。』

『友情なんてそんなものですよ』

『三日月さんも、そうでしたか?』

『人間は、嘘つきですからね。心と裏腹の言葉を話す。いつだって、騙されるのは清い魂だけです。受け入れてくれたって安心しても、次の瞬間にはキモいって平然と言えちゃう生き物が人間です。』

『三日月さんって、面白いですね。生きてる時に出会いたかった。三日月さんを知りたかった。』

『体の関係以外なら、望みを叶えてあげますよ』

『じゃあ、ユーリって呼んでくれる?』

『はい、ユーリ』

吉瀬さんは、キラキラした笑顔を三日月さんに見せる。

『キスぐらいは、してくれる?最後にさ』

『構いませんよ』

三日月さんは、幽体に対して紳士で愛がある。

『来世は、三日月さんみたいな人に会えるといいな』

『会えますよ』

『お別れのキスしてくれる?』

『はい』

『じゃあ、よろしくお願いします』

三日月さんは、優しくキスをした。

『バイバイ、三日月さん』

『さよなら、ユーリ』

吉瀬さんは、消えていった。

三日月さんは、それをずっと見ている。

『ごめんね。助けてあげられなくて…。』

カチ…カチ…カチ…カチ

三日月さんは、ビジョンを切った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...