上 下
57 / 202
宮瀬歩

絶望と孤独の日々の中で

しおりを挟む
死の三日前ー

一週間前、ニコに別れを切り出せた。

やっと、言えた。

加奈枝に、信じられないと言われてから、もう心が壊れていた。

「歩と別れたくないよ」

「駄目だよ。こっちにきて」

バリン…

「ニコぉぉぉ」

ニコは、死んだ。

俺の目の前で、窓ガラスを突き破って飛び降りた。

あれから、毎日うなされている。

戻るのに、向こうで借りた家が気がかりだった。

ニコは、最初から別れなくても死ぬつもりだったとニコの母親から聞いた。

歩が日本に帰るのを知ったから、死ぬつもりだったと言われた。

だから、悪くないのよと言ってくれた。

俺は、あの人からもらった白いハンカチを見つめていた。

帰国したら、あの人を探してカールを見せてもらったような事をしてもらおう。

それで、ニコの話を聞こう。

聞いて、聞いて、納得したい。

あの時みたいに、少しだけでも救われたい。

翼を両方失った。

身体だけでも、満たされていたらやっぱり違ったみたいだ。

「歩、ニコとずっと一緒にいて」

「わかってるよ」

「ここがいいねー。ニコも、沢山来たいから」

「そうだな、ここにするよ」

「歩の痛みや孤独が、少しでも楽になるようにしてあげるからね。」

「ありがとう、ニコ」

カチッ…ボゥッ

俺は、窓ガラスをさわる。

もう、直されちまうんだよ。

簡単に、こんなものは。

ここと違って

俺は、胸に手を当てる。

昨日、会社をさよならしたから、後は何もやる事がなかった。

「連れていけよ。ニコぉぉ」

俺は、涙を止められなかった。

「死にたいんだよ。こんな、地獄で生きていたくないよ」

煙草を消した。

生きるのって、こんな苦しかったっけ?

カチ…カチ…カチ…カチ…

【宮部さん、少し離します】

私は、宮瀬歩の痛みを感じていた。

死の二日前ー

朝から、身体が重くて堪らなかった。

もう、何もする事がない。

荷物も、もう送った。

俺は、だだっ広い部屋で、酒を飲んでる。

「ニコぉぉ、カール。加奈枝」

俺は、誰の愛もこの手に掴めないのだ。

悲劇のヒロイン、酔いしれてる、自分が一番好きなだけ…

どうとでも、言えばいいさ。

誰にも言われてないのに、俺は頭がおかしくなったか?

自分なんて、好きな時あったのかな?

母親に捨てられて、男と寝た金で育てられて、自分を綺麗な存在だって思った瞬間なんて一度もなかった。

俺は、ハンカチを握りしめる。

あの人は、めちゃくちゃ綺麗だったな

宮瀬歩には、絶望と孤独しかない。

時折激しい苦しみで、涙が流れてくるのだ。

死の一日前ー

「死にたい」

カチッ…

「スー、フー」

もう、宮瀬歩の生きたい気持ちが残っていないのを感じた。

なぜ?なぜ?こうなったの?

宮瀬歩は、独り言を話し出した。

酒に寄って幻覚を見てる。

「なぁ、カール、ニコ知ってるか?人はな、もうその愛がないってわかると絶望しかないらしい。」

煙草を消しては、また火をつけた。

カチッ

「ゴクッ、ゴクッ。明日、帰った所でな。加奈枝が、俺を抱き締めてくれると思うか?信じないって言われたんだぞ。無理に決まってるだろ?」

ビールを飲み干して、新しい缶をあける。

「もう、死にたいって呟いても心が満たされないんだよ。空っぽで、空っぽで、何にもないんだ。」

宮瀬歩の、情緒が不安定だった。

泣き出した。

「どうやって生きていくか考えるより、どうやって死ぬか考える方が幸せなんておかしいだろ?ニコ、カール。俺、どうしちゃったのかな?」

【おかしいと思えるなら、まだ大丈夫だよ。宮瀬さん】

煙草の火をけして、またつけた。

「どうやって、笑ってたかな?」

もう、宮瀬さんは、壊れてる。

「どうやって、生きてきたかな?」

宮瀬さんは、煙草を消した?

「どうやってた?どうやってた?わからない。わからない。助けて、助けて下さい。誰か、お願いします。許して、俺を許して」

痛みと苦しみが流れ込んできて、息ができないのを感じる。

ただ、生きる事の難しさを私も感じている。

カチ…カチ…カチ…カチ

【宮部さん、もう少し離します。】


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...