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五木結斗

ビジョンは、最後まで

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「はぁ、はぁ、はぁ」

三日月さんは、泣いている。

「おかしい。こんな事あるはずがない。私の能力に入ってこれる奴は、二条さんしかいないはずだ。何故だ、あの人の魂は抹消された。だから、私の能力に入ってこれるなどありえない。」

『三日月先生、気にしないで。もう、いいから』

「結斗君、駄目だ、よくない。上條陸との思い出をけがしてはいけない。」

『三日月先生、出来ないんでしょ?だったら…』

「駄目だ」

「三日月さん、取り出したビジョンは、最後まで見なければいけないんですよね?五木結斗さんが、一人ぼっちで死ぬことになるんですよね?」

三日月さんは、その言葉に固まった。

「それでも、このままビジョンを進めれば、あの男が全てにいるのだ。五木結斗が、あの男に犯されて終わるのだ」

『いいよ、三日月先生』

五木結斗は、三日月さんを抱き締める。

「結斗君、行こう。宮部さんも」

「どこにですか?」

「いいから」

三日月さんは、私と五木結斗を車に乗せた。

病院の駐車場に車を停める。

受付で、「上條陸先生をお願いします。」と言っている。

「えっと、今日は夜勤でしたので、もう上がってますよ」

「あぁ、そうですか。すみませんでした。」

『陸』

五木結斗が、走りだした。

「三日月さん」

「えっ?あっ、ついていこう」

私と三日月さんは、五木結斗についていく。

病院の屋上に来た。

「伊納、やっぱりまだ前に進むのには、時間がかかりそうだ。」

「やっぱり、仕方ないよ。」

『陸』

五木結斗は、震える手でれようとしている。

「結斗君、駄目だ」

三日月さんが、叫んだ。

「どうしてですか?」

「歪んだビジョンでれたら…。記憶がどうなるかわからないからだ。」

「誰ですか?」

さっきの二人が、話しかけてくる。

『陸』

五木結斗は、震えながらさっきより近づく。

「駄目だ、結斗」

三日月さんは、五木結斗の手を掴んだ。

「えっ?」

『入れ替わったか…。』

三日月さんは、肉体の外に出てしまっていた。

「陸、陸」

三日月さんの体で、五木結斗は、手を掴んだ。

「何ですか?」

「認知の患者さんかな?」

「見たことがないけど…。病室に戻りますか?」

「嫌だ」

五木結斗は、三日月さんの体で泣いている。

「陸、僕を綺麗にしてよ。陸」

「おっと、申し訳ないですが、私には彼氏がいますので。」

「他人行儀は、やめてよ。陸」

ボロボロ泣いている。

「もういいよ」

五木結斗は、三日月さんの手を掴んだ。

元に戻った。

「待て、五木結斗」

三日月さんの声に、五木結斗は消えた。

三日月さんは、膝から崩れ落ちる。

「何故だ?」

上條さんを睨み付けてる。

「何がですか?」

「何故だ、何故。五木結斗を拒んだ。」

「三日月さん、何を言ってるんですか?わかるわけないじゃないですか」

「わかるだろう?愛してる人間なんだろう?姿、形がかわったってわかるだろうが…」

三日月さんは、地面を叩いて泣いている。

「すみませんが、おっしゃってる意味がわかりません」

バシン…

「三日月さん」

三日月さんは、上條さんを叩いた。

「何するんですか?」

「上條陸、五木結斗を救えたのに…。どうする…。私は、五木結斗を呼び出せない。五木結斗は、大海力にまだ犯されているんだ。」

上條さんを睨み付けて、三日月さんは泣いている。

「あの、こんな事言ったら失礼ですが、頭おかしいですよ。結斗は、33年前に死んだんです。」

三日月さんは、右手の手袋を外した。

「これでも、死んでいると言うのか?」

上條陸の後頭部に手を当てる。

上條さんは、静かに泣いている。

「何ですか?これは…」

「もう、いいです。」

三日月さんは、何も説明しなかった。

「三日月さん、帰りましょう」

「すまない、取り乱した。」

私は、三日月さんの手を握りしめた。

「待ってください。さっきのは、何ですか?」

「信じてくれるのですか?」

「信じるもなにも、どうして私の知ってる五木結斗が、知らない男に」

「さようなら」

「三日月さん」

「ちょっと待って下さい」

「失礼します。」

三日月さんは、項垂れながら去っていく。

私は、三日月さんのかわりに車を運転した。


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