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三笠千尋

伝える

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「お疲れ様でした。」

「あの、今のは現実ですか?」

「はい、勿論です。」

「あの、千尋さんは一人で死ななかったんですよね」

「最後は、宮部さんが見ていましたよ」

「それって」

三日月さんは、ニコッと笑った。

「気づいていないなら、教えてあげます。」

「はい」

「宮部さんは、少なからず私と同じ能力を持っています。だから、私は宮部さんをあの日に連れて行けるのです。」

三日月さんの腕の傷が消え始める。

「どういう意味か、よくわからないのです。」

「あの日、宮部さんは知らないうちに彼女に会いに行ってるのです。」

「えっ?」

「宮部さんのそれが能力なのですよ。貴女は、生き霊を飛ばす事が出来る。知らないうちに、だから、色んな人の最後を貴女は見ているのです。宮部さんは、気づいていないと思いますが…。私は、何度も貴女を目撃してる。彼らが見せる映像の最後に、宮部さんがいるのです。」

私は、驚いて三日月さんを見つめていた。

「では、桂木丈助さんに彼女の想いを伝えに行きましょうか?」

「あっ、はい」

三日月さんは、私が驚いているのも気にしないで、手紙を差し出してきた。

「今から、書きます」

「はい」

三日月さんが、片付けをしている間に私は、千尋さんの言葉を手紙に書いた。

「終わりました」

「では、行きましょう」

そう言われて、三日月さんと一緒に歩き出す。

神社を出て、三日月さんは近くの駐車場で車に乗り込んだ。

「どうぞ」

「はい」

私も、助手席に乗り込んだ。

「あの、毎回こんな事をしてるのですか?」

「はい、そうです」

「そうなんですね」

「はい、私の役目だと思っています。」

「あの…」

「はい」

「私が、いつも居たとはどういう事でしょうか?」

「私がビジョンをお見せする8人の前には、ハッキリと宮部さんが存在していた。あの神社に呼ばれたのは、そう言うことですよ」

「時期がやってきたって事ですか?」

「察しがいいですね。」

三日月さんは、赤信号で停まると私を見つめる。

「先ほどの、桂木丈助さんが愛する人を見つけたのでしょう」

そう言って、笑った。

「ご家族なら、前を向き始めた時期だ。そして、宮部さんだけじゃないんですよ。あの場所には、少なくとも二人はいた。」

「もう一人の方の役目は?」

「もうとっくに終わっていますよ。5年以上前に…。ご家族に会いに行きましたから」

「前を向いた時期だったのですね。ご家族が…。」

「はい」

三日月さんは、そう言って柔らかい笑顔を浮かべる。

「桂木丈助さんは、前に進めるのですね?」

「絶対に、進めますよ」

三日月さんは、緑が豊かな街で車を停める。

「ここですか?」

「はい、そのはずです。」

パンパンと軽く三日月さんが、手を叩くと、三笠千尋が現れた。

「あっていますか?」

「はい」

「千尋さん、何故?」

「ああ、お呼びしました。彼女は、時々。桂木丈助さんを見守っていましたので。」

千尋さんは、私の手を握った。

「宮部さん、ありがとう。最後の瞬間に、一緒にいてくれて。一人じゃなくて、嬉しかった」

「後悔は、していないのですか?」

「不思議と後悔はしていないの。何故かは、三日月さんに聞いたわ。どうして、こうなったのかもね。それでも、私は誰も憎んでいないのよ」

「そうなのですね」

「そうなのよ。今は、信じられないぐらい。幸せなの…。」

千尋さんは、そう言って微笑んでいる。

「三日月さん、宮部さんにまだあの話はしていないの?」

「はい、最後にしようと思っています。」

「そうね、それがいいわね。偏見をもって欲しくないものね」

「はい」

そう言って、二人は話している。

「千尋さん、桂木さんが幸せになる事を見届けていたのですか?」

「そうよ。私は、ジョーを今でも愛している。前のような愛されたいとかじゃないの。ただ、穏やかな愛なのよ。私は、生きてる時に、手に入れられなかった。あの時は、自分も愛されたくて必死だったから…」

そう言って、千尋さんは寂しそうに目を伏せた。



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