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うまく言えない

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「ごめんね、私うまく言えない」

「俺達の関係の事?」

「そうかも。好きなように書けばいいから何て言えないから」

「週刊紙に?」

「そう…」

「六花、一人で悩まないでよ!俺も一緒に悩むから」

「巽君…私駄目だね」

「駄目じゃないよ」

「私、弱いね」

「そんな事ない」

「私ね…」

北浦巽に聞いて欲しい事があった。きっと、これを口に出す事は私が傷つく事だってわかっていた。それでも、口に出したかった。

「私ね…」

「うん」

「望む未来じゃない道に進んで行ってるのわかるの」

「六花……」

「赤ちゃん、治療しなきゃ授かる確率ないって話したでしょ?」

「うん」

「もう、私。治療しなくなって何年もだよ…。もうね、ほとんど授かれないんじゃないかって思ってるんだ」

巽君は、黙ってしまった。返す言葉が見つからないのは、私にもわかる。

「私は、どの瞬間に赤ちゃんが欲しくないって思ってたのかな?」

「何言ってるの?」

「だって、そうでしょ?本当に、望んでるなら出来るよ!心配しなくても…。だけど、私はきっとどこかで望んでなかったんだよ。ああ、なりたくないとか!あんな風になりたくないとか!思ってたんだよ」

「六花、悲しい事言わないでよ。でも、俺…。少しだけわかるよ!期待してる期間が長いから…。本当に駄目だった時を考えたら怖いんだよね?違う?」

「うん、怖い」

巽君の言葉に泣いていた。

「夢を見れるのは、追いかけてる間だけだ!ってメンバーに言われた事があるんだよ!俺」

「うん」

「追いかけてる間は、jewelをこうしたいとかああしたいとか沢山語って考えてさ。毎日、楽しかったんだ」

「うん」

「でもさ、いざそこにやって来たら!思ったのと違ってたんだよ」

「違ってた?」

「うん!関わる全ての人のお給料生み出さないといけなくなってさ!俺が話す言葉一つ一つ慎重にならなくちゃいけなくてさ…。いつの間にか、jewelは重たい荷物に変わっていくのを感じたんだ」

私は、今、巽君の悩みに触れてる気がした。

「今も同じ?」

「同じだったよ!六花に会うまではね」

そう言われて涙が込み上げてくる。

「私と会って、巽君は変わったの?」

「変わったんだ!jewelが、重たい荷物じゃなくなったんだよ。六花と歌詞を考えてる時、こうやって電話したり、前みたいに一緒に過ごしたり…。そうしてたら、いつの間にかjewelは荷物じゃなくなっていた。もう、夢を見れないって思ってたんだ。現実の金銭や売れるものを作らなきゃいけなくて…。jewelは、夢じゃなくて、現実になったんだって思った!嬉しいけど、酷でさ…。新しいファンが増えてきて歪み合ってるのも知ってるし。jewelの存在してる意味がわからなくなりそうだった」

巽君が泣いているのがわかる。ずっと苦しかったのがわかる。

「六花に出会って、歌を歌って泣いてくれただろ!俺は、それだって思えたんだよ。jewelとして生きてく意味はそれだって…。誰か一人の心を揺さぶれる存在になりたいって思ってたの忘れてたんだ」

巽君の役に立てている事を感じた。

「六花が俺にそれを思い出させてくれた。ありがとう」

「ううん。こっちこそありがとう」

「何か話し変えちゃったよな」

「そんな事ない。私も赤ちゃんを授かれない事が現実になるのが怖いのかも知れない」

「現実突きつけられたら、辛いよな!六花、俺さ…」

「何?」

「六花が現実を突きつけられて傷ついて生きれなくなるなら…。俺が…。俺が、支えるから!新しい生き方見つけられるようにするから…」

「巽君、私ね」

「うん」

「やっぱり、今は赤ちゃんがいる未来を夢見ていたい」

「うん」

「でも、無理だったら…。駄目だったら…。私を新しいステージに連れていってくれますか?」

「当たり前だろ!だって俺は、六花の雇い主だからよ」

巽君が笑ってる姿が目蓋の裏に浮かんでくる。私は、ボロボロ泣いていた。
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