上 下
15 / 19

井田真白(いだましろ)

しおりを挟む
「店長、お米セットしました。」

「ありがとう。」

「大宮さん、足に負担あんまりかけないようにね。」

「大宮さん、米なら俺が炊いたのに…次からは、頼ってよ」

「はい、わかりました。」

そう言って、彼女はニコニコ笑った。

39歳で、働きにやってきた大宮さんはすぐに職場のアイドル的ポジションを確立した。

返事がよくて、笑顔が素敵、おば様達はすぐに彼女を好きになった。

整った顔立ちに、可愛い仕草、正社員やアルバイトの男達も、すぐに彼女を好きになった。

絶対誰にも渡したくない。

彼女がやってきて、一ヶ月目に無性にそう思ったのだ。

帰宅する時にはめられる薬指のリングが憎かった。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

「大宮ちゃん、今日もスマイルいいね」

「ありがとうございます」

旦那さんは、どんな人なのだろうか?

モヤモヤが止まらなかった。

「大宮さん、少し残れますか?」

「あ、えっと、はい。大丈夫です。」

今日は、彼女の旦那さんが出張先から帰ってくる日だった。

わざと、彼女を残業させた。

「これ、味見してもらえませんか?」

「はい」

私は、試作品を彼女に差し出した。

料理のセンスがいい人だった。

決められた唐揚げに、彼女は七味マヨネーズやカレーマヨネーズをかけて食べていた。

トッピングにすぐに採用したのが社員の黒瀬さんだった。

「何か、大根おろしがいまいちですよね?」

「やっぱり、そうだよね」

私は、大宮さんが使ったフォークをわざととって、味見をした。

「もう少し、辛みが欲しいよね。大宮さんもそう思うでしょ?」

「はい、胡椒いれてみます?」

「そうだね」

私は、それを大宮さんの口にいれた。

わざと体をくっつける。

「うん、美味しいです。」

「ほんとだね。これ、本部に提案してみるよ」

大宮さんの腰を持って、引き寄せた。

「店長、あがりますね?」

少しだけ恥ずかしそうにしていた。

心の中で、ガッツポーズをした。

そんな事をちょこちょことしていたけれど…。

さすがに、限界だった。

そんなある日、黒瀬さんが大宮さんの歓迎会をしたいと言い出した。

黒瀬さんは32歳独身で、実は大宮さんを気に入ってると情報を聞いた。

好きになるのわかる。愛想もいいし、綺麗なのにサバサバしてて、笑うと可愛い。

そして、梅酒を飲まされた大宮さんは酔っ払った。

「私が、連れて帰ります」

黒瀬さんが、連れて帰ろうとしたのを引き留めた。

「店長なら、住所わかるわね」

湯田さんが、フォローをしてくれた。

「そうですか、じゃあ任せます。」

黒瀬さんは、そう言った。

私は、大宮さんを家に連れて帰った。

「由紀斗」

そう言った彼女に、水をあげた。

服にビシャビシャに溢(こぼ)れた。

「服、脱ぎましょう。タオル持ってきます」

私は、洗面所からタオルを持ってきた。

大宮さんの服を脱がせて、体を拭いた。

「由紀斗」

そう言った大宮さんを抱き締めた。

旦那さんが、好きでも構わなかった。

私だって、大好きなのだ。

目覚めて、動揺してる大宮さんをまた抱いた。

「遊びでもいいから、こんな風にしてよ。梨寿(りじゅ)さん」

私の言葉に、梨寿(りじゅ)さんは頷いてくれた。

優しさに甘えた。

旦那さんが、出張の時は家にやってきてくれた。

肌を重ねた。

子供がいない事と梨寿(りじゅ)さんの優しさに私は甘え続けた。

そして………。

「旦那さんと別れてよ。私のものにちゃんとなってよ。子供に縛られなくて楽でいいんでしょ?私との関係」

本当は、言いたくなかったのに、こんな事…。

「わかった。別れるよ」

優しさを利用した。

梨寿(りじゅ)さんの中に、旦那さんがいるのが、今日わかった。

でも、それと同時に梨寿(りじゅ)さんと旦那さんは、一緒にいれないのも感じとった。

苦しかったんだね。

子供が出来ない事が、とても…。

私は、最初から興味がなかったけれど…。

結婚してる、梨寿(りじゅ)さんには辛い事だったんだと思う。

離婚出来なくてもいい。

私は傍にいてあげたい。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

愛してる。梨寿&真白

三愛 紫月 (さんあい しづき)
ライト文芸
こちらも、これから先も、愛してる。で、描けなかったお話を描いています。 三万文字以内の短編小説になります。 こちらは、真白と梨寿(りじゅ)のお話です。 始めに、これから先も愛してるをお読みいただいてからでお願いします。 これから先も、愛してる ↓ 愛してる。真白&梨寿(りじゅ) ↓ 愛してる。由紀斗&千尋 ↓ 鼓動の速さでわかる事 の順番になります。 小説家になろうでも、載せています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

抱きたい・・・急に意欲的になる旦那をベッドの上で指導していたのは親友だった!?裏切りには裏切りを

白崎アイド
大衆娯楽
旦那の抱き方がいまいち下手で困っていると、親友に打ち明けた。 「そのうちうまくなるよ」と、親友が親身に悩みを聞いてくれたことで、私の気持ちは軽くなった。 しかし、その後の裏切り行為に怒りがこみ上げてきた私は、裏切りで仕返しをすることに。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

ターゲットは旦那様

ガイア
ライト文芸
プロの殺し屋の千草は、ターゲットの男を殺しに岐阜に向かった。 岐阜に住んでいる母親には、ちゃんとした会社で働いていると嘘をついていたが、その母親が最近病院で仲良くなった人の息子とお見合いをしてほしいという。 そのお見合い相手がまさかのターゲット。千草はターゲットの懐に入り込むためにお見合いを承諾するが、ターゲットの男はどうやらかなりの変わり者っぽくて……? 「母ちゃんを安心させるために結婚するフリしくれ」 なんでターゲットと同棲しないといけないのよ……。

Husband's secret (夫の秘密)

設樂理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! 夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで  Another Storyを考えてみました。 むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

処理中です...