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可愛い人

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隣に眠る由紀斗さんを見つめていた。

まだ、触(ふ)れていたい。

「もう、無理だよ。出来ない」

目を開けて、俺に言う。

「出来るよ、由紀斗さん。ほら」

そう言うと、由紀斗さんはトロリとした顔を俺に向ける。

「千尋、明日が怖い」

由紀斗さんは、俺の胸に顔を埋める。

「明日、由紀斗さん家の近くで待ってようか?」

冗談っぽく笑った俺を覗き込む。

「ズルいなー。その顔」

ドキドキする。

「両親との話し合いが終わったら、千尋に電話する。」

「離婚届に判押したら、両親に会いに行くんですか?」

「それが、梨寿(りじゅ)の為になる事だと思うから」

俺に抱かれたのに、俺といるのに、頭の中は奥さんばっかりだ。

「そんな顔するなよ。今は、千尋でいっぱいだ」

そう言って、頬を赤らめた。

興味本位でも愛されなくてもいい。

由紀斗さんが笑ってくれるなら、それでいいんだよ。

ヤキモチなんて、20年、妬いた事なかった。

「由紀斗さん、俺ね。セックスなんてただの肉と肉とのぶつかり合いぐらいにしか思ってなかったんですよ。」

聞いて欲しいのは、昔の記憶を知って欲しかったから…。

「20年前の18歳の頃に、結婚しようって約束した彼氏がいたんですよ。」

由紀斗さんは、黙って俺を見つめてる。

「俺は、そいつと17歳から付き合ってて真剣だったのに…。向こうは、どんな気持ちだったのかな?男同士は、子供が出来ないから別れようだってさ」

平然と捨てられた純粋無垢な俺。

「俺に、セックスを教えたのはそいつだったんだよ。」

「先輩か?」

「違う。先輩と付き合ったのは、そいつにふられてすぐだった。市木、だから言っただろ?あいつは、駄目だって。同じバスケ部だった先輩が、俺に会いに来た」

由紀斗さんは、俺の涙を拭ってくれる。

「それから俺は、性に対して奔放になっていった。先輩は、ノーマルなセックスが嫌いだった。男女混合のセックス、SM、痴漢、何だってアリだったよ。俺も、自分の体を肉の塊にしか思ってなかったから何でも出来た。」

「辛かったんだな」

由紀斗さんは、俺の涙を拭いながら覗き込んだ。

「そんなわけないだろ?ただの肉に感情なんてないよ。今だって、俺は、酔っ払ったら誰でも抱くんだ。」

由紀斗さんに見られたくなくて起き上がった。

「千尋は、ちゃんと感情があるよ」

由紀斗さんは、俺の腰に手を回した。

「由紀斗さんは、たいして経験なんてないだろ?だから、わかんないだけだよ」

由紀斗さんは、起き上がって俺を抱き締めた。

「数をこなせば幸せになれるのか?確かに俺は、片手で数える程しか経験してない。それは、いけないことなのだろうか?もっと、違う世界がある事を千尋が俺に教えてくれた。」

違うよ。いけなくなんてないよ。

由紀斗さんが、綺麗なのがわかるから俺が汚(よご)したくないんだよ。

「千尋の苦しみが、いつか癒えればいいな」

「優しくすんなよ。愛してんのは、奥さんだろ?俺の事なんて、ただの興味本位だろ?」

女みたいな事、言うなよ。

たった、三回抱いたくらいで由紀斗さんから奥さん消せるとでも思ったのかよ。

思い上がってんじゃねーぞ、俺。

「千尋をいつかちゃんと愛するから…。今言える気持ちは、千尋に抱かれるのは嫌じゃなかったし。千尋とこうして過ごしたかった気持ちしか言えない。ズルいよな。俺…。まだ、梨寿(りじゅ)を消せてないのに千尋にこんな事させて」

由紀斗さんの涙が、俺の背中を濡らす。

由紀斗さんは、ズルくなんてないんだよ。

拒否されなかったから

歯止めがきかなくなった。

キスした瞬間に、前から、由紀斗さんに興味を持っていた自分に気づいた。

そしたら、押さえられなくなって

「俺といる時は、奥さんの話しをしないで欲しい」

「わかった」

不倫相手の女が、男に言うみたいな台詞はいてどうすんだ。

もう、俺、由紀斗さんへの気持ちを止められそうにない。

「また、抱いていい?」

「構わない」

俺は、由紀斗さんにキスをした。

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