歪な気持ち~3つの恋~

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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蜜蜂とクマさん

力じゃ奪えない

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「今度、みんなも誘ってご飯に行きませんか?小野田先生が、嫌じゃなかったら」

「そうね。私は、きちんとみんなの背景を知るべきかもしれないわね。」

「前に進めそうなんだな?」

「紺野さんのお陰よ。私何かより辛い思いを抱えている。」

「先生、私何かじゃないよ。それをされた人の傷は、同じだと思う。どんな事があっても女性を傷つけちゃいけないって、私思うの。」

「紺野さん」

「だって、そうでしょ?力だって強いじゃない?現に、笹部に私は力じゃ敵わない。」

「そうだな、紺野」

「昔読んだ本に力は、男が上で、口は女が上って…。だから、お互いにそれを使ってはいけないって。私も、時々、笹部に言いすぎちゃうの。だけど、笹部は私を力でねじ伏せたりしないから」

「私も、菅野先生に言いすぎるからわかるわ。菅野先生は、力でねじ伏せたりしないけどね」

「でも、それは優しさで愛でしょ?だって、いつだって私なんかどうにでも出来るんだから」

「そうね。そうだと私も思うわ」

私は、小野田先生の手を握りしめた。

「先生、さっきも言ったけど…。その背景に何があったって、先生にみんなは酷い事をしたの。力で先生を傷つけた。」

「紺野さんも、そうだったのよね。自分を許せなかったのよね」

「女に産まれた事が、堪らなく嫌だった。けがらわしかった。それでも、誰かの人形でいたかった。」

「愛されたかったのよね」

私は、先生を見て泣いていた。

「何か、ずっとこんな話ばっかりになっちゃうよね。私は、あの中学で小野田先生に出会ってね。私の世界をずっと救って欲しかったの。だから、先生に会えたら言おうって思っちゃって。卒業式には、言えなかったから…。」

「紺野さん、ごめんね。気づいてあげられなくて。」

先生は、また私を抱き締めてくれた。

「あの時、先生にどうしたの?って聞かれてたら、もしかしたら私話してたかもしれない。先生、いつか先生をまたやる日がきたら、クラスや学年なんか関係なしに声をかけてあげて。きっと、私みたいに悩んでる子がいるはずだから」

「わかった。必ず、そうする」

「俺も、そうするよ。紺野」

私は、小野田先生から離れた。

連絡先を交換した。

「また、ご飯でも行きましょう」

「それじゃあね」

「さよなら」

私とクマさんは、小野田先生と菅野先生が見えなくなるまで手をふっていた。

「愛梨、帰ろうか」

「うん」

クマさんも私も愛を知らなかった。

クマさんは、ずっと暴力と無視される世界にいた。

「クマさん」

「何?」

「よしよし」

「何だよ、急に」

「したくなっただけ」

「愛梨、優しくしてくれてありがとう」

「ううん」

笹部の家に、最近行った。

その帰りに笹部は、私に言った。

あんな小さな存在に、俺怯えていたんだなって…。

私も同じだった。

祖母が他界し、叔父に再会した日に思った。

私は、こんな小さな男の言いなりになっていたのかって…。

離れて、見えた世界は、とっても広く大きくて

あの頃、見ていた景色とは違っていた。

「小野田先生に、先生っていう事を弱みにさせたのは俺達なんだよな」

笹部は、そう言って眉を寄せた。

「そうだね。先生は、生徒に逆らえないなんて構造が出来上がっちゃったんだろうね」

「逆もだよな。羽尾はお先生は、生徒を逆らえないようにしてたろ?」

「確かに、そうだよね」

「結局、弱いものがねじ伏せられて生きる世の中ってやつだよな。」

「それでも、逆らって生きたいね」

「愛梨なら、出来そうだな」

「クマさんと一緒じゃなきゃ無理だよ」

「そうか?」

「そうだよ。私は、クマさんがいるから、どの世界でも飛んでいけるんだよ」

「俺達の愛は奪えないな」

クマさんは、そう言って笑った。

あの日、叔父は私を力ずくで笹部から奪おうとした。

でも、それは出来なかった。

例え、力でねじ伏せ叔父の人形になっていたとしても、心は笹部の元にずっとあったのがわかる。 

「力で、何もかも奪えても。愛だけは、絶対に奪えないんだよ。」

「俺、あの日、愛梨を連れ去れなくても何度だって迎えに行ったよ。どれだけ、殴られたって蹴られたって、愛梨を失う痛みよりはマシだったから」

クマさんは、人目もはばからずに私を抱き締めた。

「愛してるなんて、言葉だけじゃ足りないぐらい、私は国厚(くにあつ)が好きだよ。どうしようもないぐらい好きだよ」

「知ってる。俺も同じだから」
 
私は、クマさんだけに蜂蜜あいをあげる蜂でいる。 

あの日、この手に掴みたかった愛は、抱えきれない程、この両手にしっかりと握りしめさせられた。

けして、誰にも奪えない。

それは、私とクマさんだけじゃなく。

小花さんと紫音、坂口君と赤池さん、小野田先生と菅野先生、新田にったと夢野さん、佐伯と原口さんを見た時にも感じた。

それぞれの形の愛は、どこまでもどこまでも続いていくのを感じた。

私は、これからも笹部国厚ささべくにあつを愛してる。

    
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