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鼓動の速さでわかる事【上映】

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「待ってよ、先生」

突っ込んだ手を引っ張られた。

ボタボタと音が聞こえる程、血が落ちた。

「先生、手首切ってるよ。止血しなきゃ…。」

「離せ、触(さわ)るな」

央美君の手を振り払った。

「先生、待って、待ってよ」

「俺は、お前の父親を自殺に追い込んだ」

「嘘だよね、先生」

「本当だ、二宮法律事務所に勤めていた。」

「先生、じゃあ、本当に」

「ああ、本当だ。」

「じゃあ、何でデートをしたの?」

「この鼓動が何なのか知りたかっただけだ」

「鼓動が速くなるんでしょ?恋だよ。先生、それは俺を好きなんだよ。ね、先生」

「違う………罪悪感だ」

「先生」

その場に、央美は崩れ落ちた。

無視して、桜川優は歩き出した。

「死ぬなら、仕方ないか」

灰皿の破片で、手首をザックリ切っていた。

「大丈夫ですか?」

「えっ?」

「僕、そこで看護士やってるんです。」

見知らぬ男が、俺の手を掴んだ。

「手当てしますよ。」

「縫わなくちゃダメかな?」

「ですね。病院行きましょう」

そう言って、彼は近くの病院に連れて行ってくれた。

「阿久津君、患者さん?」

「はい、手首を切っていて」

「時間外なのにな。まぁ、いい見せて」

「はい」

慣れた手つきで、診察をされた。

「ちょっと、チクッとする。」

麻酔と縫合をされた。

「また、次でいいからお金払って」

「わかりました。」

「これ、痛み止めと抗生物質。三日後、またきてね」

「わかりました。」

「じゃあね」

「失礼します。」

俺は、立ち上がった。

「送りますよ」

彼は、一緒に病院を出た。

「助かりました。」

「桜川優先生ですよね?」

「えっ?」

「僕、阿久津梨央(あくつりお)です。覚えてませんか?」

「すみません。」

「電車で、痴漢に襲われて。」

「冤罪の?」

「そっちじゃないですよ。ストーカーだったって」

「あー。思い出した。男のストーカーに痴漢だったね。あれから、大丈夫?」

「はい、先生のお陰で人生がかわりました。」

「よかった」

「いつか、先生にあったらお礼を言いたかったんです。二宮法律事務所に行ったら、辞めたって聞きまして」

「ああ、そうだね。」

「先生、一年前。先生に助けてもらってから僕…。先生が好きでした。三ヶ月前、先生があのbarからでてくるのを偶然見つけてしまいまして。いつか、気持ちを伝えようと思ったんです。」

誰でもよかったのかも知れない

「先生?泣いてますよ」

ハンカチを差し出された。

「ありがとう」

「大丈夫ですか?」

「阿久津君が、思ってるよりも私は汚(きたな)い人間だ。失礼する。」

そう言って帰ろうとした、腕を引き寄せられた。


「僕が、支えてあげます。先生を…」

抱き締められた腕を振りほどく事はしなかった。

だって、こんなにも暖かいから

「阿久津君を傷つける。好きではない君を利用したくない」

「いいんですよ、先生」

阿久津君は、俺にキスをしてきた。

柔らかいぬくもり、心臓は踊らなかった。

どこに、心臓があるかわからない程に静かだった。

央美の視点に切り替わるー

「せん…」

声をかけようとした先生は、男の人に抱き締められた。

ゆっくり、キスをされた。

「先生…」

胸を押さえる。

ギリギリと痛む。

俺、先生が親父を追い詰めた弁護士だって知ってたよ。

半年前ー

「央美、ここね。めっちゃ、スポットにも使えるんだよ」

「ささー。男釣れるの?」

「そうそう。出会い放題」

そう言われて、同級生の笹塚に、barに連れてこられた。

「桜川先生、依頼引き受けてくれよ。絶対、勝てるだろ?桜川先生なら」

「結城さん、私は先生ではない。それに、もう弁護士に戻るつもりもない。」

鉄火面みたいな顔をした、その人は男の人に言った。

桜川……。

すぐにわかった。

誰かって


「桜川先生が、会ってくれなかった。央美、父さんを信じてくれ」

父親を殺したやつだ。

復讐相手だ。
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