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君は、君だよ。

君が切って

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まだ、手を動かそうとする私の手を斗真は強く握りしめた。

「いつか出来た時の為に、とっておかなくちゃ。とにかく、部屋にあがって。それ、縫ってあげるから」

斗真は、私の手を引っ張って部屋に入れた。

「これ、着て」

斗真のTシャツを渡された。

斗真は、目を瞑ってる。

「着替えたら、言って」

「うん」

私は、カッターシャツを脱いだ。

下に着てるキャミソールもわざと脱いだ。

「着替えた」

嘘をついた。

「じゃあ」

こっちを向いた斗真は、顔を真っ赤にして下を向いた。

「ちゃ、ちゃ、ちゃんと着てよ」

「何で?こっち、見てよ」

「見たくないよ」

「嫌なの?」

「嫌とかじゃなくて、見たくないんだよ」

「興奮するから?」

「違うよ。大事にしてよ。さっちゃんは、お母さんとは違うだろ」

その言葉に胸が苦しくなった。

「ごめんね」

私は、斗真のTシャツを着た。

「縫ってあげるね」

斗真は、私のカッターシャツをあの頃みたいに縫ってくれる。

【斗真、里子ね。お母さんみたいになりたくない。】

【うん】

【男の人なら、誰でもいいみたいになりたくない】

【うん】

【好きな人にしか、そんなんしない。信じてくれる?】

【うん。さっちゃんは、お母さんと違って好きな人にしかしない子だよ。】

母親にちぎられたぬいぐるみを縫いながら、斗真は笑った。

斗真の事を好きじゃないって言ったから、斗真はそう言ったんだ。

私は、涙がとまらなかった。

「さっちゃん、出来たよ」

小花さんに、見せてる笑顔じゃなかった。

「ティッシュ、はい。泣いてるの?大丈夫?」

「ごめんね。ありがとう」

斗真は、頭を撫でてくれる。

「斗真、髪の毛切ってくれない?」

「切れないよ。僕は…。」

「切って、下手くそでも、ガタガタでもいいから。ねっ?斗真」

「わかった。」

斗真は、そう言ってゴミ袋を持ってきた。

頭が入るように切ってる。

「これ、被って」

「うん」

ゴミ袋を被ったら、ガムテープを使って髪の毛を受け止められるようにしてる。

櫛とハサミを持った。

「普通の鋏しかないよ」

「いいよ」

髪の毛をくくるゴムを私に渡した。

「切るよ」

「うん」

斗真は、そう言って髪の毛を切ってくれる。

ジョキ、ジョキって、鋏の音が耳に響く。

時々、斗真の手が、首にれる。

嬉しくて、涙がとまらない。

斗真が、れてくれるだけで嬉しい。

ずっと、れていて。

小花さん何か忘れて、そのまま私を抱き締めて欲しい。

斗真の暖かい手が、また首にれる。

目をつぶると、体にれられる気がする。

優しく抱き締めて欲しい。

私を好きだって、言って欲しい。

「勿体ないね。せっかく長かったのに…」

「気づいてたの?」

「さっちゃんの事は、知ってるよ。」

「そうだね」

「泣いてるの?」

「何か、目にゴミが入ったみたい」

「髪の毛かな?ちょっと待って」

キスするぐらい、近くに斗真の顔がやってきた。

「何?」

「髪の毛なら、痛いから」

無防備なプクッとピンクの唇に目が行く。

「大丈夫みたいだよ」

「うん、ありがとう」

斗真に、愛されたい。

「終わったよ。うまく切れなかったけど、よかったの?」

もっと、髪の毛を切っていて欲しかった。

「これ、脱いで」

ゴミ袋を器用に脱いだ。

「ゴミ箱に捨ててくるね」

斗真は、くるくる丸めてゴミ箱に捨てに行った。

コロコロを持って、戻ってきた、

斗真は私の服をコロコロしてくれる。

「髪の毛、払って」

そう言われて、払った。

斗真は、コロコロ、コロコロと髪の毛がなくなるまでしていた。

「お兄さんは、調子は?」

「また、入院したんだよ。」

コロコロを置いて、斗真は私の隣に座った。

「それで、叔母さんも遅いんだね」

「うん、そうなんだ。」

そう言いながら、斗真は小花さんのジャージを取り出してる。

「誰の?」

「小花さんのなんだ。結構、破れてるから…。少しずつ縫わなくちゃいけなくてね」

そう言いながら、私の隣で裁縫を始める。


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