上 下
644 / 646
新しい未来へ~互いを救ってくれた愛と共に…。~【凛と拓夢の話3】

帰り道【凛】

しおりを挟む
「帰ろうか?」

「うん」

「ちゃんと挨拶だけはして行く?」

「ううん。いらない」

私は、龍ちゃんと並んで駅に向かう。

「もう、撮影には参加しないのか?」

「参加しても会わないよ。最近は、SNOWROSEだけ別撮りっていうのに変わったから……」

「そっか……。あのさ、凛。久しぶりに会ったのに、悲しい別れになったんじゃないのか?」

「どうして……。龍ちゃんがそんな顔するの?」

龍ちゃんは、切なそうな表情を浮かべていた。

「ごめん。でも、凛が星村さんを愛してるのはわかってるから……」

「私って、欲深いよね。普通に考えて二人も愛せないのにね」

「そんな事ないんじゃないか?女の人でも男の人でも、一度に複数人を愛せる人は存在するから」

「そうなのかな……。それって、ちゃんと全員を愛せてるのかな?」

龍ちゃんは、私の手をそっと握りしめてくる。

「愛せてるよ。少なくとも俺は、凛に愛されてるって感じてる」

「龍ちゃん……」

「未来がないぐらいの年齢だったら星村さんを選んでただろ?」

私は、龍ちゃんの言葉に笑ってしまう。

「例えば、凛が今90歳とかだったら?」

「90歳って龍ちゃん。それは、未来がなさすぎじゃない?」

私の言葉に龍ちゃんは、ハハハって笑った後で、「100歳まで生きるとしても10年は過ごせるだろ?」と言った。

「それなら、拓夢を選んだと思う。未来がなくてもいいなら……。ごめんね」

「謝る必要はないだろ?俺には、拭い切れなかった絶望を星村さんは拭えたんだから当然だよ」

駅について、龍ちゃんは切符を買う。

「俺達は、きっと少しずつズレていってたんだよな」

私は、龍ちゃんから切符を受け取った。

「ボタンの掛け違いってやつ?」

「そうだな。細かいボタンの服だよな」

「掛け違ってるのにも気づかないタイプのやつだよね」

「それだよ、それ……」

確かに、私と龍ちゃんはそんな感じだった。

私達は、ホームに降りて行く。

「気づいた時には、手遅れで……本当ならやり直せなかったんだと思う」

龍ちゃんは、ホームを見つめている。

「だけど、やり直せたのは、彼が音楽をしてて未来がある年齢だったからだ」

ホームに人が増えていくのを見て、龍ちゃんは拓夢の名前を出すのをやめた。

拓夢が、SNOWROSEじゃなかったら……。
私と拓夢は、今でも関係を続けていたはずだ。

「俺が選ばれたのは、彼が若かったからだね」

電車がホームに入ってくる。

「それだけじゃないよ。龍ちゃん……」

私は、龍ちゃんの手を握りしめた。

「だけど、俺には凛の絶望を拭えないから……」

龍ちゃんは、私の手を引いてくれる。電車に乗り込んだ。

「もっと私が強くならなきゃ駄目なんだよね」

電車が動きだして、私と龍ちゃんは窓の外の景色を見つめながら話す。

「凛は、強いよ。これ以上強くならなくていいんじゃないか?」

「全然だよ。私は、弱いよ。だから、自分の力だけで絶望を拭えなかったんだよ」

「何度も頑張ってただろ?そんなに自分を責めなくていい」

私は、龍ちゃんの手を強く握りしめた。

「龍ちゃん……。私、少しずつ進んで行くから。今日の事も、いつか笑って話せるぐらいになるから」

拓夢が抜けた穴を埋めるものはない。

二人で一つだった。

拓夢に出会ってからは、ずっとそうだった。

「ゆっくりでいい。焦らなくていいから……」

「龍ちゃん」

ずっと隣にいてくれる龍ちゃんとの日々を大切に生きていこう。

そして、いつかこの穴を自分の力で補えるようになったら……。

「今日は、帰って飲もうか?」

「飲まないよ……」

「じゃあ、久しぶりに映画でも見ようか?」

「見る」

「楽しいのにしようか!コメディとか?」

「いいね」

最寄りの駅について、私達は電車を降りた。

この先、どんな未来が待っていても……。

私は、私で頑張るから……。


さよなら、拓夢。

ずっとずっと……。

愛してる……。

「ポップコーンでも買って帰ろうか?」

「いいね」

「映画館みたいだろ?」

「うん」

龍ちゃん、ごめんね。

だけど、私はやっぱりどっちも愛してるんだ。

私と龍ちゃんは、笑いながら家への道を歩く。

どんな未来が起こるかわからないけれど……。

今日も、明日も私達は歩いて行くだけ……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...