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新しい未来へ~互いを救ってくれた愛と共に…。~【凛と拓夢の話3】

会わないつもり?【拓夢】

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「もしかして、もう会わないつもり?」

「その方が凛にとっていいと思います」

「だけど、撮影で会ったりもするだろ?PVで使ってるんだから……」

「それは、そうなんですけど……。撮影が終われば話しなんかしないですぐに帰るから。あの時間は、本当にビジネスで……凛を想う時間にはなってないんです」

「そこは、割り切ってたんだね」

相沢さんは、頷きながら笑った。

「ちゃんと向き合えたのは久々でした。そしたは、止まらないんですよ。今まで、塞き止めていた気持ちが溢れだしてきて。今すぐ凛の腕を掴んで逃げ出したいぐらいなんです」

「凛さんの全てを自分のものにしたくなっちゃったんだね」

「そうなんです……」

「気持ちって押さえつければ押さえつけるほど……。解放した時の反動は止められないからね」

俺は、相沢さんの目をゆっくり見つめて頷いていた。

「自分の気持ちなのに、止める事が出来ないんだよね。わかるよ。まるで、別の生き物を飼ってるみたいだろ?」

「はい……」

「その生き物を押さえつける事は出来ないんだよね」

「はい……」

相沢さんは、俺の背中をトントンと叩く。

「じゃあ、一緒に帰ろうか?」

「はい」

「松田君には、悪いけどね。この会場で、凛さんを見ている事は今の星村君には出来ないだろ?」

俺は、相沢さんの言葉に頷いた。旦那さんと笑い合っている凛を見るのは辛い。

「痛くて、苦しい。その今の感情で歌詞を書いたらどうかな?」

「相沢さん……」

「ぶつけるんだよ。星村君は、それが出来るだろ?」

「書きます。俺、帰って書きます」

「じゃあ、帰ろうか!」

俺は、相沢さんと歩き出す。

「拓夢……」

その声に振り返った。

「何で……」

「帰るなら言ってよ。また、会えなくなるし……。話せなくなるでしょ?」

「何で……凛。旦那さんは?」

「今は、龍ちゃんの話しはいいでしょ」

相沢さんは「先に行ってる」と言って歩き出した。

「凛、駄目なんだよ。俺は……」

「わかってるよ。もう、会いたくないんでしょ?」

「違う……」

「週刊誌に撮られちゃったし……。私、拓夢に迷惑ばかりかけてる」

「違う……」

「違わないよ。もう、会わなくていいよ。会うと迷惑かけちゃうから……気をつけて帰ってね」

戻ろうとする凛の腕を無意識に掴んだ。

「拓夢……」

「迷惑じゃない。迷惑なわけない。だけど、駄目なんだよ」

「何が?」

「凛に会ったら、凛が欲しくなる。次に凛とそうなったら……俺は、あの時みたいに止められない。わかってるから、駄目なんだ」

「拓夢……」

「凛……」

凛が俺の頬にそっと手を当ててくる。

『さよなら…………』

同じ言葉を俺達は、口に出していた。

「それって、凛も……」

「私は、捨てられないよ。何もかも……だって、私は、ズルいから……」

「わかってる」

わかっていて、俺は凛を愛した。

俺は、凛の頬に手を当てる。

「愛してるよ、凛」

「拓夢……」

「この先、誰かと出会って、付き合って結婚しても……。それでも、俺は凛を愛してる。凛だけを想ってる……俺もズルい人間だから……」

「拓夢、ありがとう。私も拓夢の事、愛してるよ。だけど、龍ちゃんも愛してるの……だから、どっちか何か選べないの。ごめんね」

「先に出会ったのが俺だったら、凛は俺の傍にいてくれた?」

凛の涙が親指を濡らす。

「先に出会ったのが拓夢だったら、拓夢の傍にいたよ」

俺は、凛の頬から手を離した。

「ズルいよ、凛」

ポケットから、ハンカチを取り出して凛に差し出す。

「拓夢……ごめんね」

「謝らないでよ。謝られたら俺、凄い惨めなだけだろ?」

凛は、俺の言葉に黙ってしまう。

「最後に抱き締めていい?」

「うん」

俺は、凛を抱き締める。凛の匂いも柔らかさも、確かめるように……。

「凛とそうなりたくなるから……もう離れる」

「拓夢……ありがとう」

離れた俺の手を凛が掴んでくる。

「何が?」

「あの時の絶望を拭ってくれて……」

「ううん……本当は、今の絶望だって拭ってやりたかったよ、凛」

「大丈夫だよ。私も、覚悟を決めたから……。だけど、多分。こんな事したら、きっといけないんだけど……」

俺は、ズルい。
だって、こんなにも凛を愛しているから……。

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