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エピローグ~月と星の交わる場所へ~【凛と拓夢の話2】

醜い自分が…【凛】

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拓夢は、胸を触ってくれない。ただ、胸の上に手が置かれてるだけだった。

「こうやってしてよ。いつも、みたいに絶望を拭ってよ」

私の言葉に拓夢は、泣いている。泣きながら、首を振った。

「どうして?」

「もう、体の関係じゃ凛の絶望を拭ってやれないだろ?」

その言葉に私は苛立つ。

「じゃあ、いい。違う人を探すから」

その言葉に拓夢は、私を引き寄せて抱き締めてくる。

「旦那さん以外に、抱かれないでよ。凛」

「じゃあ、拓夢が抱いて…」

「それは、出来ない」

「だったら、もういい」

離れようとする私を拓夢は、力を少し込めて抱き締めてくる。

「離して、抱いてくれないならいらない」

暴れようとする私の耳元で拓夢は言った。

「何が許せないの?」

その言葉に、私は子供みたいに泣いてしまう。

「ああー、ああー」そう言って、拓夢にしがみついた。

「大丈夫だよ!大丈夫」

拓夢は、私の背中を優しく撫でてくれる。

「雪乃が、和紗の投稿を載せてて。今日、和紗に赤ちゃんが産まれたの。それで、雪乃と和紗がコメントしあってて私は入れなくて。でも、そんな事じゃなくて…。おめでとうって思えなかった。和紗が大好きなのにおめでとうって思えなかったの」

拓夢は、私の頭を優しく撫でてくれる。

「私、醜い。こんな醜い心を持ってるなら。死ななきゃ直らないよ。だから、もういなくなりたい」

拓夢は、私の背中を優しく撫でながら「大丈夫」を繰り返してくれる。

「拓夢、私。駄目な人間でしょ?醜くて、汚くて…。最低でしょ?」

「そんな事ない」

「嘘よ」

私の言葉に拓夢は、私の頭から背中にかけて優しく撫で続ける。

「凛、あっていいんだよ。その気持ち、持っていたっていいんだよ。いつかきっと、おめでとうって言える日がくるよ。大丈夫だから…。そんなに自分を責めなくていいんだ」

拓夢は、そう言って私の腰を引き寄せるように抱き締めてくれる。

「そんな風に言わないでよ。いつかなんかこないじゃない。私、和紗にもおめでとうって思えなかった」

「くるよ、必ず。今は、まだそう思えなくても…」

拓夢は、そう言って私の背中を撫で続けてくれて、私は子供みたいに声を出して泣いてしまった。

「ああー、ああー」

拓夢は、何も言わずにただただ、私の髪や背中を撫でてくれていた。

「のぼせるから、あがろうか?」

私が泣き終わったタイミングで、拓夢は言った。

「うん」

拓夢は、私から離れて涙で、ぐちゃぐちゃな頬を撫でてくれる。

「一人で洗える?」

「子供じゃないから、出来るよ」

「わかった。じゃあ、凛が洗い終わるの待ってる」

「もう、洗いあいはしないんだね」

私の言葉に拓夢は、ニコニコと笑ってから頭を撫でてくれる。

「しないよ。俺達は、もうそういうのはしない」

「でも、キスはしてくれるんでしょ?」

「それは、一緒に過ごす間だけだよ」

「じゃあ、洗うね」

拓夢にそう言ってから、私はシャワーを捻った。絶望を拭うだけの体の関係を、拓夢は本当にやめるんだ。
そう思いながら、体や髪を洗っていた。

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