上 下
554 / 646
エピローグ【凛と拓夢の話】

未来はいらない【凛】

しおりを挟む
「私、会いに行くよ。でも、これがきっと最後だと思う。最後にちゃんと話してくるよ。それでちゃんと…」

「その先は、しっー」

龍ちゃんは、私の唇に右手の人差し指を当ててくる。

「龍ちゃん…」

「この先の未来はいらないから…。そういう約束でいっぱい苦しんできただろ?俺達。だから、もしかしたらいるってそれぐらいでいいから。あっ、でも、俺が死ぬ時ぐらいは、一緒に居てくれたらいいかな?」

「又、死ぬ時の話するの?龍ちゃん、何か病気とか?」

私は、龍ちゃんの手を握りしめて話す。

「ないない。俺は、元気だよ!だけど、わかってるんだ。お母さんとお父さん見てたから…。誰かを思って生きてく辛さとか、叶わない願い背負って歩いてく悲しさとか…。そういうの俺わかってるから…。だから、凛にはそうなって欲しくない」

そう言って、龍ちゃんは私の頬を優しく撫でてくれる。龍ちゃんの気持ちを私は受け取った。

「わかった!龍ちゃん、ちゃんと拓夢との事終わらせてくるから…。龍ちゃんと過ごす為に…。龍ちゃんと過ごす未来の為に…。ちゃんとこの傷を終わらせてくるから」

龍ちゃんは、私の手を握りしめる。

「あの日もこうやって、始まったんだよな!星村さんと…。お互い消せない傷があったんだろ?」

私は、龍ちゃんに見つめられて、もう嘘をつけずに「そうだね」と言った。

「でも、同じ傷を抱えた人間は拭い合えないって言うから…。一緒にいると何か違ったのかな?」

私は、龍ちゃんの言葉に龍ちゃんの目を見つめる。

「それは、わかんないけど、私の中での一番はずっと龍ちゃんだよ!龍ちゃんしかいないよ。それは、変わらない。この先、どんな事がおきても…。どんな事になってもそれは変わらない」

龍ちゃんは、私の言葉に首を左右に振る。

「かわるかもしれないだろ?人間なんてわからないだろ?だから、さっきも言ったけど約束はいらないから…。帰って来れなくなったら、連絡してくれたらいい。後の事は、凛が決める事だから…。俺は、あの時みたいにここで凛を待ってるから」

そう言って、龍ちゃんは柔らかい笑顔を浮かべる。

「何で、そんなに優しいの?」

「優しい?それは、違うよ!だって俺は、星村さんとは違って凛が帰ってくる証拠みたいなのを持ってるんだ」

「それって、婚姻届って事?」

私は、龍ちゃんにそう言って尋ねた。

「まあ、それもあるね。余裕ぶっこいて大人にフリして本当は違うのかもしれないけど…。でも、俺は凛が戻ってきてくれるって信じてる。だから、もし、そうじゃないなら連絡して…。俺、待ってるから!だから、さよならぐらいポストにいれててよ。あっ!それと後のものは何でも持っていきなよ!俺は、この家があればそれだけで充分だから…。」

「うん。ありがとう。龍ちゃん」

龍ちゃんの言葉に私は、そう言うしか出来なかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...