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エピローグ【凛と拓夢の話】
広がる雑音【凛】
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慌ただしく時間だけが過ぎて行った。私の心の傷や悲しみは、置き去りに進んでいく。あれから、数日が過ぎ。私は、元に戻った気がしていた。でも、龍ちゃんはきっと私の危うさを感じていたのだと思う。
「おはよう」
「おはよう、龍ちゃん」
この日、朝から私は盛大に目玉焼きを焦がしていた。
「凛、真っ黒だなー」
シャワーから上がってきた龍ちゃんがニコニコ笑って言った。
「ごめんね。龍ちゃん」
「いいよ!全然」
そう言いながら、龍ちゃんはお皿を持って行く。何も変わらない日常。よかった。あのまま、どうにかならなくて…。
『いただきます』
「うわっ、ニガイ」
私の顔を見て、龍ちゃんは笑っていた。
「我慢して食べなよ」
龍ちゃんは、笑って食べてくれる。これがいい。これだけで充分。
私の手が当たって、テレビのリモコンがついてしまった。
【女優の葛城雅美さんが妊娠しました】
そのニュースが流れて、もう動揺しなくなった心が揺れた。
パリン…
「あっ」
私は、飲もうと思った珈琲のマグカップを床に落としてしまった。
「片付けるよ、俺が…」
「いい、後でやるから」
「でも、危ないだろ?」
「大丈夫だから。それとも染みになっちゃうのを心配してる?」
「そんなのは、心配してないよ」
龍ちゃんは、そう言って私を見つめる。龍ちゃんは、妊娠の話をするテレビをパチッと消した。
「さっきの女優さん、私達と結婚したの同じなんだよ!知ってた?」
「知らないよ」
龍ちゃんは、そう言って黙々とご飯を食べていた。まだ、メンタルが不安定なのを自分でも感じていた。あっ、違う。生理だからだ。
「生理痛酷いから、薬飲もうかな」
「きついなら、そうしたらいいんじゃないかな」
『ごちそうさまでした』
タイミングよくご飯を食べ終わった。私は、立ち上がろうとする。
「待って、凛。刺さったら大変だから」
龍ちゃんは、急いでキッチンからキッチンペーパーや小さな箒や袋を持ってきた。
「いいって」
「駄目だよ」
そう言って、龍ちゃんは私の足元で珈琲カップを片付けてくれていた。消えたい、悲しい、辛い。何故かその言葉だけが頭の中をループしていた。考えないようにすればする程、それはどんどん大きくなっていく。
「終わったよ」
「ありがとう」
私は、気にしないようにした。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
龍ちゃんは、そう言っていなくなった。龍ちゃんがいない時間は、その雑音が頭により大きく響いた。
それからの日々をどう過ごしたかは、ハッキリと思い出せないぐらいだった。
ただ、龍ちゃんがいる時間は雑音が止んで、龍ちゃんがいなくなると広がってくのと、あの日の龍ちゃんを思ってかろうじで踏みとどまっているような感覚に近かった。
「おはよう」
「おはよう、龍ちゃん」
この日、朝から私は盛大に目玉焼きを焦がしていた。
「凛、真っ黒だなー」
シャワーから上がってきた龍ちゃんがニコニコ笑って言った。
「ごめんね。龍ちゃん」
「いいよ!全然」
そう言いながら、龍ちゃんはお皿を持って行く。何も変わらない日常。よかった。あのまま、どうにかならなくて…。
『いただきます』
「うわっ、ニガイ」
私の顔を見て、龍ちゃんは笑っていた。
「我慢して食べなよ」
龍ちゃんは、笑って食べてくれる。これがいい。これだけで充分。
私の手が当たって、テレビのリモコンがついてしまった。
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パリン…
「あっ」
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「片付けるよ、俺が…」
「いい、後でやるから」
「でも、危ないだろ?」
「大丈夫だから。それとも染みになっちゃうのを心配してる?」
「そんなのは、心配してないよ」
龍ちゃんは、そう言って私を見つめる。龍ちゃんは、妊娠の話をするテレビをパチッと消した。
「さっきの女優さん、私達と結婚したの同じなんだよ!知ってた?」
「知らないよ」
龍ちゃんは、そう言って黙々とご飯を食べていた。まだ、メンタルが不安定なのを自分でも感じていた。あっ、違う。生理だからだ。
「生理痛酷いから、薬飲もうかな」
「きついなら、そうしたらいいんじゃないかな」
『ごちそうさまでした』
タイミングよくご飯を食べ終わった。私は、立ち上がろうとする。
「待って、凛。刺さったら大変だから」
龍ちゃんは、急いでキッチンからキッチンペーパーや小さな箒や袋を持ってきた。
「いいって」
「駄目だよ」
そう言って、龍ちゃんは私の足元で珈琲カップを片付けてくれていた。消えたい、悲しい、辛い。何故かその言葉だけが頭の中をループしていた。考えないようにすればする程、それはどんどん大きくなっていく。
「終わったよ」
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私は、気にしないようにした。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
龍ちゃんは、そう言っていなくなった。龍ちゃんがいない時間は、その雑音が頭により大きく響いた。
それからの日々をどう過ごしたかは、ハッキリと思い出せないぐらいだった。
ただ、龍ちゃんがいる時間は雑音が止んで、龍ちゃんがいなくなると広がってくのと、あの日の龍ちゃんを思ってかろうじで踏みとどまっているような感覚に近かった。
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