上 下
521 / 646
エピローグ【凛と拓夢の話】

龍次郎の本心【凛】

しおりを挟む
「だから、許せたのですか?」

はやとさんは、そう言って龍ちゃんを真剣な眼差しで見つめる。私の目から涙がボトボトと流れ落ちる。

「はやと、ちょっと意地悪すぎると思うんだよ!休憩しよう」

相沢さんが、私を見つめてそう言った。

「凛、大丈夫?」

龍ちゃんは、私にハンカチを差し出してくれた。気づくと私は、胃の辺りの服をギュッと握りしめていた。

「続けてもらって、大丈夫です」

私は、何とかそう言ったけれど、本当は息が詰まりそうだった。

「凛さんの前では、やめましょうか?」

はやとさんの言葉に私は、首を左右に無言で振った。

「大丈夫?胃が痛いんじゃないか?」

龍ちゃんは、そう言って私の胃にある手を握りしめてくれる。本当の気持ちを知りたいのに怖くて堪らない。

「龍ちゃん、大丈夫だから…」

私は、うまく笑えないながらも笑ってみせる。龍ちゃんは、何も言わずに、私の背中を優しく優しく撫でてくれる。

「凛さんの前で、本当に話してもいいのですか?」

はやとさんの言葉に私は、「はい」と小さく呟いた。

「わかりました。では、質問に戻ります。だから、許せたのですか?」

はやとさんは、さっきの質問をもう一度龍ちゃんにする。龍ちゃんは、私の背中を優しく優しく撫で続けながら話し出した。

「そうですね。許せると言うのとは少し違います」

「どういう意味ですか?」

私もはやとさんと同じ気持ちだった。龍ちゃんは、私の背中を撫でる手を止めて話し出す。

「許すとか許さないとか、そんな簡単な二択で答えを出せるものではありませんでした。それでも、私なりには考えました。すると、一つの答えが浮かんできたんです」

その言葉にはやとさんは、「それは何ですか?」と龍ちゃんに聞いた。

龍ちゃんは、ニコッと微笑んで話した。

「許すとか許さないとかじゃなくて、浮かんだ答えは感謝だった」

「感謝ですか?」

私もはやとさんも相沢さんも、同じように目をパチクリとさせた驚いた顔で龍ちゃんを見ていた。

「はい。許すとか許さないとか、そんなんじゃないんです。星村さんには、感謝しかしていないんですよ」

この場にいる全員が、龍ちゃんの言葉を飲み込むのに時間がかかっていたと思う。龍ちゃんは、そんな事を気にする様子もなく続ける。

「星村さんがいなければ、妻は悲しみと苦しみの中をさ迷っていました。その感情が妻の心を掬っていき、やがて妻は自らを殺めてしまう。そんな気がしていました」

私は、その言葉に龍ちゃんを見つめて泣いていた。龍ちゃんは、何もかもわかっていながら私を拓夢の元に行かせていたのがわかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。 しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。 ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。 色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。 だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。 彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。 そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。 しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

処理中です...