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エピローグ【拓夢の話4】

相沢さんのなりたかったもの

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相沢さんは、マンションの駐車場で車を停める。

「俺のセカンドハウスで話そうか」

「二つ家があるんですか?」

「まあ、これは趣味の部屋だよ」

そう言って車から降りて歩き出した。部屋につき玄関を開けて、俺は相沢さんがなりたかった何かを知った。

「相沢さん」

「俺もね、かつてはバンドマンだったんだよ!」

玄関に飾られた大きな写真を見て気づいた。

「デビュー出来たんですよね?それぐらい凄い」

俺の言葉に相沢さんは、首を横に振った。

「さっき言っただろ!努力も才能も運も何もかも意味がない事を知っていればよかったって」

「それって、どう言う意味ですか?」

「俺達のやっていたバンドはね!ボーカルの聖治(せいじ)の書く歌詞と曲がよかったんだ」

「はい」

「命は、無理だよな」

相沢さんは、そう言って玄関の鍵を閉めた。

「あがって」

「お邪魔します」 

相沢さんは、俺をリビングに通した。音楽関連のもので溢(あふ)れている。

「命って?」

「聖治は、心中したんだよ」

「えっ?」

俺は、開いた口を塞げずにいた。

「愛する彼女がね!余命僅かだった。で、聖治は彼女と死んだんだ」

「なぜですか?」

俺の言葉に、相沢さんは目を細めていた。

「彼女がひとりぼっちで、あの世にいくのが嫌だったからだよ」

「二人で死んだって事ですか?」

「そうだよ!デビューの話を持ちかけられた二日後にね。聖治の才能に俺達バンドメンバーは惚れてたんだ。聖治の書いた曲は、聖治にしか歌えなかった。それに俺達は、楽器は弾けても聖治みたいな才能はなかったから…」

相沢さんは、そう言うとやかんにお水をいれて火にかけてる。

「絶望だったよ!だって、努力も才能も運も全部無駄だったんだからさ!命の前では、全部意味がない事を知った」

「それで、相沢さんはこの仕事を?」

「まさか!」と言って相沢さんは笑った。

「俺にはね、これしかなかったから追いかけたよ!そしたらね、こう言われ続けた。君には、表は向いてないって!でも、信じたくなくて必死で頑張ったよ!沢山、努力して…。夢は叶うって信じて…。でもね、星村君。どんなに頑張っても、どんなに努力しても、無理な事って世の中に沢山あるんだよ」

その言葉の重みを書き消すようにやかんがピーと音を鳴らした。

「コーヒーいれるから、座って」

「はい」

俺は、ダイニングの椅子をひいて座る。相沢さんは、コーヒーをいれて持ってきてくれた。

「だから、俺は言うんだよ!色んな子に…。努力しても叶わない事があるって、夢は叶うとは限らないって…。皆、若いから、相沢さん酷いですって反発するんだよね」

相沢さんは、そう言って笑って向かいの椅子に座る。

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