上 下
452 / 646
エピローグ【凛の話4】

お化けじゃないよ

しおりを挟む
雨に濡れないのを感じて、私は振り返った。

「傘、忘れたの?」

「何でいるの?」

私は、驚いた顔をしてその人を見つめていた。

「お化けじゃないから!これ、使って」

そこにいたのは、理沙ちゃんだった。

「何で、いるの?」

「これ、買いに行ってたの」

理沙ちゃんは、アンジェロの袋を見せてきた。

「でも、ここに用事」

「凛ちゃんにもお裾分けしようと思ってね!駅降りたら、似たひとを見つけちゃったから!追いかけてきちゃった」

理沙ちゃんは、そう言って私にパンの袋を握らせる。

「理沙ちゃん、私」

涙が止められなくなって泣いてしまった。

「大丈夫?凛ちゃん」

理沙ちゃんは、突然泣き出した私に驚いていた。

「ごめんね。わざわざありがとう」

私は、涙を拭って笑ってみせる。

「理沙でよかったら、話聞くよ!今日は、お昼からだから、バイト」

「理沙ちゃん」

私は、理沙ちゃんの優しさに胸の奥が暖かくなるのを感じた。

「家にきて!」

私は、理沙ちゃんにそう言った。

「勿論だよ」

理沙ちゃんと一緒に一つの傘に入りながら家に帰る。

「凛ちゃん、ここに住んでるの?」

「そうだよ!」

家の鍵を開けて、理沙ちゃんを入れた。

「あっ、洗濯物!ごめん。あがって」

「うん」

私は、理沙ちゃんにそう言ってバタバタと中に入る。ダイニングに鞄をひっかけて、テーブルにパンの袋を置いて急いで庭に出た。

洗濯物は、洗い直さなきゃいけないぐらいびしょ濡れだった。

「かご」

私は、中に入って洗面所から洗濯かごを取って戻ってきた。
もう一度、庭に出て洗濯物を取り込んだ。それを持って、洗面所に行って洗濯を回す。びしょ濡れの今着ていた服も一緒に入れた。

バスタオルで、頭と体を拭いてからルームウェアに着替えた。フェイスタオルを取って、リビングに戻った。

「ごめんね、理沙ちゃん」

私は、フェイスタオルを差し出した。

「凛ちゃん、シャワー浴びた方がいいよ!」

理沙ちゃんは、私の手を握ってそう言った。

「冷たいから、浴びてきて」

「ごめんね」

私は、理沙ちゃんにそう言ってシャワーを浴びに行く。

お風呂場の蛇口を捻ってお湯が出るのを待っていた。

雨が降るなどと言ってなかった。

「女心と秋の空」

私は、ポツリと呟いてシャワーに入った。季節がもう夏から秋へと移り変わってきたのがわかった。シャワーのお湯が冷えた体を暖めてくれる。

これから、どんどん悪い事が起きそうな予感が胸に広がってくる。安易に不倫に逃げた罰。だけど、不思議と後悔はなかった。

シャワーから上がって、バスタオルをとって体を拭いていく。

私は、拓夢との時間を後悔なんてしてなかった。
だって、あの日…。

ううん。

ルームウェアに着替えてから、髪を乾かす。

こんな風に絶望しないでいい日がいつか来るのだろうか?

私は、ドライヤーを終えてリビングに戻った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

売られて嫁いだ伯爵様には、犬と狼の時間がある

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:95

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,913pt お気に入り:3,073

【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:925

ミステリー小説

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:14,910pt お気に入り:6

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:26,583pt お気に入り:9,148

わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:26,429pt お気に入り:2,771

逃亡姫と敵国王子は国を奪う為に何を求むのか【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:66

処理中です...