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エピローグ【凛の話4】

クリーニング屋

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私は、駅前のクリーニング屋さんまで歩いてきた。

「凛ちゃん!!」

誰かに呼ばれた気がして、立ち止まった。

「やっぱり、凛ちゃんだー。久しぶり」

「あっ、うん。久しぶり」

会ったのは、加奈ちゃんだった。

「ここら辺に住んでるの?」

「うん。加奈ちゃんも?」

「私は、一駅向こうなんだけどね!旦那が働いてるから、たまたま忘れ物届けに」

「そうなんだ」

加奈ちゃんは、大きなお腹を抱えながらニコニコ笑っていた。

「凛ちゃんに会えるとか嬉しい。凄く久しぶりだね!」

「そうだね」

「番号教えてよ」

「うん。いいよ!」

嫌だとは言えなくて、そう言うしかなくて私は、番号を伝えた。

「雪乃ちゃんも妊娠したの知ってる?」

「うん」

知らないわけがなかった。

「凛ちゃんと雪乃ちゃんと仲良かったもんね!登録出来たから、メッセージするね」

加奈ちゃんは、私にそう言うとメッセージを送ってきた。

「それ、私」

「登録しとくね」

「うん」

ニコニコ嬉しそうな加奈ちゃん。私は、何も嬉しくなどなかった。

「一人目?」

私は、聞くしかなくて、そう言った。

「そうそう。治療でね!雪乃ちゃんと同じ病院なの。凛ちゃんは、子供は?」

「私は、まだ」

まだじゃない。出来ないんだ。なのに、私は、見栄を張る。

「そっか!でも、40歳で初産は大変なんだって!だから、早くつくった方がいいよ」

「そうだね」

「今行ってる不妊治療のとこならすぐに出来たから!教えてあげようか?」

「あっ、うん」

「メッセージで送るね」

「うん、ありがとう」

ぎこちないけど笑えたよね。

「凛ちゃん、また今度ゆっくりご飯でも行かない?」

「うん、そうだね」

行きたくなんかないくせに、何言ってんの私。

「ごめん。旦那の親と会うんだ。また、産まれて落ち着いたらご飯行こうね!バイバイ」

「うん、バイバイ」

うんじゃなくて、嫌って言えよ!言えなかった自分に嫌悪感。私は、加奈ちゃんが見えなくなるまで見つめていた。

苦しくて消えたい。泣きそうになるのを堪えながら歩く。クリーニング屋さんに入って、スーツを出す。

「ありがとうございました」

お店を出た瞬間。雨が降ってきた。グットタイミング!

私は、そのまま歩き出した。

人生って悪い事ばかりじゃないって聞いたはずなのに…。おかしくない?
私は、今、悪い事しか起こっていない気がするよ。
涙が流れるけど、雨のお陰で見えなくて嬉しい。

拓夢と不倫したツケが回ってきたのだと思う。龍ちゃんを裏切った罰なのだ。

絶望を拭う為に、私が求めた快楽。その快楽を得た、代償を払う。ただ、それだけの事なのに…。

何で、私ばかりって思いが溢(あふ)れちゃうんだろう。

「龍ちゃん、助けて」

誰に言う訳じゃない声で、呟いた。

パチパチ、パチパチ…

何故か、雨の音が少し静かになった気がした。
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