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エピローグ【凛の話4】

いい匂いだね

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龍ちゃんは、鼻歌を歌いながらもどってきた。

「凛、大丈夫?」

「あっ、うん」

「火傷した?」

何故か、龍ちゃんに右手を握りしめられる。

「してないよ」

私は、手を引っ込めた。

「それなら、よかった。二階で寝るんだろ?」

「うん」

「ご飯は、明日も食べてくれる?」

龍ちゃんは、キラキラした笑顔を向けて笑ってくる。

そのキラキラが私には重い。

「明日も食べよう」

龍ちゃんと仲直りしたい。だって、私。気づいたんだよ!

龍ちゃんを選んだんだよ。

「よかった!ビール飲む?」

「あっ、うん」

龍ちゃんは、嬉しそうに笑ってビールを持って行った。私は、シチューをお玉ですくってスープカップに注いだ。

「持ってくよ」

今日の龍ちゃんは、よく動く。シチューをトレーに乗せて、カトラリーセットも乗せて持っていく。私は、鍋の火を止めてからダイニングテーブルに行く。

「凛、早く食べよう」

「うん」

龍ちゃんに急かされるように椅子に座る。

『いただきます』

私と龍ちゃんは、向い合わせで、ご飯を食べ始める。

「お寿司、先に食べなきゃなー」

龍ちゃんは、そう言ってお寿司を食べる。

「龍ちゃん、お母さんとは…」

私の言葉に龍ちゃんは、私を見つめる。

「母さんはね!凛の味方だから」

「どういう意味?」

「どんな事があっても、凛の味方だから」

龍ちゃんは、そう言ってビールを飲んだ。

「よくわからないかな…」

私は、眉を寄せてそう言った。

「いつか、わかるよ!きっと、いつか。俺か母さんが話すよ」

龍ちゃんは、そう言ってお寿司を口に運んだ。私は、そんな龍ちゃんの姿を見つめていた。

「あのさ、暫くは家にいるんだろ?」

「うん」

「それは、よかったよ」

「ごめんね。私、自分勝手だったよね」

私の言葉に、龍ちゃんは大きく首を横に振った。

「許してくれるの?」

私は、龍ちゃんにそう尋ねていた。

「許すか…。少し違うかな?」

龍ちゃんは、そう言って、またビールを口に運んだ。

「どういう事?」

「何だろう。許すとかそんなんじゃないんだ。今、言えるのは、俺は凛が帰ってきたのが嬉しいだけ」

そう言って、ニコニコしながらお寿司を食べている。さっきから、龍ちゃんは、ずっと嬉しそうだ。

私が、帰ってきたのが嬉しいだなんて…。やっぱり、龍ちゃんは優しすぎるんだよ!

優しすぎるから、私に利用されちゃうんだよ。だから、私、拓夢と過ごしちゃうんだよ。

「シチューうまいな!このパンも…」

いつの間にか龍ちゃんは、お寿司を食べ終わってシチューとパンを食べていた。

「よかった」

「めちゃくちゃうまいよ!凛の味だ。ホッとする」

そう言って、夢中でシチューを食べている。龍ちゃんが、喜んでくれて嬉しいのに…。
幸せなのに…。

どうして、涙が出るんだろう?

私は、涙を手で必死で拭った。

だけど、止まってくれない。
言うことを聞いてくれない。

何で、こんなに涙が止まらないのかな…。

罪悪感しかないよね?

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