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エピローグ【拓夢の話3】

女だったらよかった

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髪を乾かし終わってから、キッチンにやってきてお水を飲んだ。紙袋から、昨日、買った服を取り出してお互いに着替えた。ハンガーに吊るすのを忘れていたけど服は、皺には、なっていなかった。

凛は、化粧を軽くしに行く。

「向こうで、綺麗にされるから薄くだよ」

「うん」

俺は、凛にそう言ってスマホを見つめる。

【今から、出るから】

時刻は、七時過ぎだった。まっつんから、メッセージがきていた。

【了解】

俺は、返信をした。

「終わったよ!」

「かわった?」

「軽くファンデーションして、口紅つけたぐらい」

「元がいいから、美人だな」

「大袈裟だよ」

「じゃあ、行こうか」

「うん」

俺と凛は、鞄を持った。火の元を確認して、玄関に向かう。

「凛、最後に抱き締めていい?」

「うん」

俺は、凛を強く抱き締める。

「息が出来ないよ」

「ごめん」

「私も、ギュッー」

そう言って、凛が俺を強く抱き締めてくれる。

「ちょっと苦しい」

「ごめんね」

「全然」

そう言って、笑い合った。

「キス、もう一回だけしたい」

「うん」

優しく唇を重ね合わせる。もう、激しいキスはしなかった。

「行こうか」

「うん」

靴を履いて、家を出る。鍵を閉めて、歩き出す。今までみたいに、手を繋ぐ事はしない。もどかしい距離感が続くだけ。

「あのパン屋さんで、パン買って帰ろう!」

「向こうで?」

「うん」

凛は、その距離を忘れるように俺に話しかけてくれる。

「旦那さんと食べなよ!」

「うん」

「旦那さんは、凛を幸せにしてくれる人だって、俺にはわかるよ」

「どうかな?」

赤信号で、並んで停まる。凛は、思い出したように財布から指輪(あれ)を取り出した。
左手の薬指に、指輪(それ)がはめられる。指輪(かれ)が、また戻ってきた。

青信号に変わって、歩き出す。この数センチより、遥か遠くに凛は行ってしまったのを感じる。握りしめたい気持ちを抱えながら、俺達は駅に着いた。

「凛ちゃん、可愛い」

駅に着いた瞬間、理沙ちゃんは凛を見つけて走ってきた。

「おはよう」

「おはよう!凛ちゃん、めちゃくちゃ可愛い」

「おばさんだから、白
駄目でしょ?」

「ううん。全然、似合ってるよ」

俺をおいて、二人は歩いて行く。それが、寂しくて悲しくて、俺は下を向いた。

「ちゃんとお別れしたか?」

俺は、まっつんの声に顔をあげる。

「まっつん。うん!何とかな」

「なら、よかった」

まっつんと俺も並んで歩いて行く。

「優太、切符はい!たくむんも!後で、返してね」

理沙ちゃんは、そう言って切符を渡してくれる。

「ありがとう」

「ううん。凛ちゃん、行こう」

「うん」

理沙ちゃんは、凛の腕に腕を絡ませて歩いて行く。

「女だったら、よかったな」ポツリと呟いた俺の言葉にまっつんは笑った。

「今からでもなれよ」

そう言って、まっつんは改札を抜ける。

「意味不明だから」

「だって、女だったらよかったんだろ?」

俺も改札を抜けて、まっつんの隣に並ぶ。

「それは、言葉のだな」

言葉で、歌詞ノートを忘れたのを俺は思い出した。

「歌詞ノート忘れちゃったよ」

「何か作ったのか?」

「ああ」

「そうか!それは、残念だな」

まっつんは、残念そうな顔をして階段をおりていく。


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