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エピローグ【拓夢の話3】

本当に最後の朝ごはん

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洗面所から戻ると、凛はダイニングテーブルに朝ご飯を並べてくれていた。

「向こうまで、時間かかるから早く食べなくちゃね」

「そうだな」

「朝、シャワー浴びたい」

「俺もだわ!一緒に入ろうか?」

「うん」

俺は、ダイニングテーブルの椅子を引いて腰かける。

「食べよう」

「うん」

『いただきます』俺と凛は同時に手を合わせた。これが、最後だとわかっているから…。無言で食べる。

お祖母ちゃんが、亡くなるのがわかっていたあの夜みたいだった。俺のお祖母ちゃんは、余命宣告通りに亡くなった。前日の晩御飯は、みんな死ぬのがわかっていたから無言で食事をした。誰も一言も話さなかった。みんな、お祖母ちゃんが死ぬのを感じていた。今、思うと第六感みたいなものだったんだろう。家族全員が、お祖母ちゃんが死ぬのを本能でわかっているようだった。そんな体験をしたのは、後にも先にも、あの一度だけだった。お祖母ちゃんが亡くなったのは、朝8時だった。病院にいた俺達全員、「やっぱりな」と思った顔をしていた。人の死なんて予言できるものじゃないと思っていたけれど…。違うんだなと初めて思った出来事だった。

『ごちそうさまでした』

食べ終わりは、同じだった。

「拓夢、眉間に皺寄せてるよ!」

「本当!ごめん」

俺は、慌てて皺を伸ばす。

「下げるね」

「うん」

凛は、お皿を重ねて持って行ってくれる。キッチンで、お皿を洗い始めるのが見える。俺は、ゆっくりと立ち上がって凛に近づいていく。お祖母ちゃんとは、違う。凛は、この先も生きてるんだ。

お皿を洗い始めた凛を後ろから抱き締める。

「美味しかったよ!卵焼きも味噌汁も鮭もほうれん草のおひたしも…。ちゃんと美味しいって言わなくてごめんな」

「そんなのいいよ」

カチャカチャとお皿を洗う手を握りしめる。

「こんな風に出来るのが、最後ならちゃんと話さなくちゃいけないのに…。俺、うまく出来なくてごめん」

「いいんだって!私も黙ってたから」

凛は、規則正しい音をたてながらお皿を洗ってる。

「俺ね、凛を本当に愛してるよ!それだけは、忘れないで」

「うん」

人を好きになるのに理由なんてない。

人を愛するのに日にちなんて関係ない。

パチンと催眠にかけられたように、俺は凛に恋をした。そして、今、掌を叩いて催眠がとかれようとしている。

でも、そんな簡単にかかった催眠(まほう)をとくことは出来ない。

どれだけ、手を叩かれたって俺は催眠状態から抜け出さないだろう。もう、これ以上に求めたくなる愛なんてこの先存在しないのがわかってる。

この先、誰に恋をしても…。

凛以上にはならないのがわかる。

お祖母ちゃんが死ぬのをわかってたみたいに…。俺の第六感が、そう言っていた。

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