上 下
421 / 646
エピローグ【拓夢の話3】

他のやつとはしないでくれ

しおりを挟む
あれから一時間以上は経つだろうか。


「大変、感動的でした……ぐすっ、わんわんが実に健気ですね」

ハンカチで涙を拭う副会長さま。


「くそぉ、この俺を泣かすとは……真の忠犬じゃねーか、ノラのくせに!」

ティッシュで鼻をかみながらよく分からないことを言う会長さま。


「犬が人間になるのって本当に大変なんだねー、わんわん君ってば偉いよね!」

いえ俺は最初から人間ですよ、会計さま。


「海賊に誘拐された先輩を救うため、剣をくわえて必死に戦う姿が素敵でした!」

え、何それ。そんな場面あった?



ホール前方、舞台側の壁一面に設置された超大型スクリーン。
今そこに映し出されているのは幼い頃の書記さま、そして雑種の野良犬にオーバーラップする……俺の写真。
静かに流れる音楽がやたらと人を切ない気持ちにさせる。

えーと、うん。何だこれ。

『書記さまと雑種のノラ犬』の出会いと別れ、そして数々の試練や冒険。
全てを乗り越えついに人間となった元・ノラ犬が書記さまと再会するまでを描いた、感動巨編(映画)
――が、何故か延々さっきまでスクリーンを埋め尽くしていたんですけど。

しかもTVで観たことのある有名な役者さんが普通に出てくるし。特に、幼い頃の書記さまを演じていたのって今凄い人気の天才子役だよね?
他にもCGやアニメ、音楽など超一流のクリエイターやアーティストが制作に参加してますが。
ああほら、今エンドロールで確認したから間違いない。うわ、演出・脚本家もよく聞く名前だ。監督に至っては何度も海外で映画賞とか貰ってる人でしょ。えええっ!?


再度言うぞ、何だこれ。
それにこの場合、全校集会じゃなくて単なる映画鑑賞会だよね。

客席に座ってスクリーンを見る全校生徒たち。その最前列を陣取っているのが生徒会役員さま方だ。
……本当に何やってんだろ、この人達。

かくいう俺は舞台そで、幕の裏側にいます。だって強制的に連れ込まれたし。
パイプイスを並べ、書記さまと二人隣り合って座っている。膝上じゃないだけマシだけど、何故か書記さまと手を繋いだ状態に。

.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】旦那様、お飾りですか?

紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。 社交の場では立派な妻であるように、と。 そして家庭では大切にするつもりはないことも。 幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。 そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...