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エピローグ【拓夢の話3】

最後の時間を思い切り…

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「着替えるよ」

俺は、凛の唇から唇を離してそう言った。

「うん」

シャツを着る。

「あの服、着たら写メ送ってよ」

「あっ!うん」

「明日の服、買って帰らないとなー。いい?」

「そうだね」

凛は、俺が普通に話すからホッとした顔をして笑っていた。
もう、これ以上、感情(きもち)を剥き出しにしたくなかった。
少しは、冷静でいたかったし…。

優しい皆月龍次郎さんのように、凛にとって変わらないような場所に俺もなりたかった。

もう二度と会いたくない憎い奴じゃなくて…。

俺じゃなきゃ無理だって、俺じゃなきゃ拭えないんだって、そんな人になりたかった。

だから俺は、もうこれ以上凛を困らせたくなかった。

「凛も買ってあげるよ」

「いいよ。冬服まで買ってもらったんだから…」

「いいって」

俺は、さっき買った袋を持つ。

「行こうか」

「うん」

部屋で清算するシステムなのは、助かった。玄関付近にある機械に料金が出される。

「私も払う」

「いいって!俺は、いつかビックスターになるんだからさ」

俺は、財布からクレジットカードを取り出して機械に読ませる。

「高いね。向こうとは違う」

「まあ、都会だからな」

支払いがうまく出来たようだった。

「何かなれないね」

「確かに、向こうと違ったな」

鍵が開いたのがわかって、俺と凛は外に出た。出てすぐに俺は、手を握りしめる。
指をしっかりと絡ませる。ずっと気づかないフリをしていた。左手にあたる指輪の感触。
一度、気にすると気になってしまう。俺は、気にしないようにする。

「あのさ、明日。まっつんいけるから」

俺は、スマホをわざと掴んで凛に言った。

「よかった。じゃあ、四人でいけるんだね」

凛は、キラキラの笑顔を向けて笑ってくる。

「うん」

俺は、そう言ってスマホを鞄にしまった。

「拓夢」

「何?」

「さっきから、指輪、気になってる?」

「どうして?」

「いつもと違って、繋ぎ方が浅いなって思っただけだから、気にしないで」

指輪の感触を感じないように、わざと浅く握りしめていたのがバレていた。

「はずした方がいいよね?」

凛は、そう言って俺を見つめてくる。

「全然、気にしてないから」

俺は、そう言ってニカって、大きく横に口を伸ばして笑って見せる。
めちゃくちゃ気にしてるのがバレた気がした。やっぱり、俺、情けないよな…。

凛は、何も言わずに俺から手を離すと指輪を外した。

えっ?!俺は、目をパチパチさせて凛を見つめる。

凛は、無言のまま。小さな財布を取り出して、その小銭入れに指輪をしまった。

そして、何も言わずに手を繋いできた。

俺は、何て言えばいいかわからなくて…。ただ、目を見開いて凛を見つめていた。

ホテルの出口を抜けて、駅に向かって歩く。何故、指輪をはずしたのか、聞けないせいで、ずっと無言のままだった。

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