上 下
397 / 646
エピローグ【凛の話3】

やっと、繋げた…

しおりを挟む
電車が出発する。

「どれくらいかかるかな?」

「わからない」

「一時間は、かかるかなー」

「それぐらいかかった気がする」

「理沙ちゃんと行ったんだっけ?」

「うん」

どんどん駅が、通りすぎていく。

「最初出会った時に、あの駅で降りたのは何で?」

「あー。用事があったから!」

「そうだったんだね!」

「うん。あの時は、あの駅で降りたかったんだよね」

「思い出だったの?」

拓夢は、懐かしそうな顔をしてる。

「智とあの場所で約束したんだよ!絶対メジャーデビューしようなって!だから、あの駅で降りたんだ…。でも、行ったら惨めになるだけだった」

そう言った後だった。拓夢は、私の手をそっと握った。

「もう、ここまで来たら大丈夫だろ?」

「そうだね」

私達の住む街から、何駅も過ぎていた。私も拓夢の手をギュッと握りしめた。ずっと、こうしたかった。やっと繋げた。

「やっと繋げたな」

「うん」

「ずっともどかしかった。凛も?」

「そうだね」

「触れるか触れないかで、ずっといるの辛いな」

「そうだね」

「だってさ、俺。この手を知っちゃってるから…」

そう言って、拓夢はさらに私の手を強く握りしめてくる。確かに、そう…。私と拓夢は、この手の温もりを知ってる。

「ずっと、こうしたかった」

私の言葉に拓夢は、頷いてくれる。

プシュー

電車が駅に停まる。同じ車両にいた数人が降りて行く。私と拓夢だけが、残った。

「みんな降りちゃったから、逆によかったな」

そう言って、拓夢は笑った。

「二人きりだね」

「だなー。貸し切りみたい」

「うん。何か、嬉しい」

扉が閉まって走り出す。拓夢は、手を離して私の腰に手を回す。

「二人だから、いいかなーって」

「駄目でしょ?」

「キスぐらいする?」

「だから、駄目だって」

バカなカップルになったみたいで楽しい。

「たまにいるだろ?周りが見ててもキスとか触り出したりとかするやつ」

「うん。いる」

「あんなんには、なりたくないし。ならないって思ってたけど…。今は、なりたい」

「どうして?」

「高校生とか二十歳なら出来ただろうけど…。27にもなったら、出来ないだろ?それに、デビューしたらもっと無理だから…。今だけしたら、駄目かな?」

「大人はしないよ」

「だったら、今は、大人にならなくていい」

そう言って、拓夢は私を引き寄せて抱き締める。

「駄目だよ」

「誰もいないから!一回だけ」

「駄目だって」

「お願い」

そう言われて、私は拓夢にキスをされた。ドキドキする。今まで、こんな事した事ない。公共の場所で、何してるんだろう?

「嫌だった?」

「当たり前だよ」

「バレなかっただろ?」

「誰もいないから」

「凛、見て」

そう言って、拓夢は自分の胸に私の手を当ててくる。

「どっちがドキドキしてるかわからない」

私の言葉に拓夢は笑って言う。

「凛も同じ気持ちで嬉しいな」

そう言って、頭を優しく撫でてくれる。さっきより距離が近づいて嬉しくて幸せ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

処理中です...