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エピローグ【拓夢の話2】

明日は、最後のデートだから

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「旦那さんにバレたくないからか?」

「ごちそうさまでした」

凛は、ご飯を食べ終わってトレーに乗せてる。

「待って!まだ、話終わってない」

立ち上がろうとする凛の腕を掴んだ。

「どうしたの?」

「だから、出会ったあの頃みたいに手繋いで!都会(あっち)にあるホテルに行きたいなーって、おしゃれなんだよ」

凛は、俺を見つめてそっと手を離して立ち上がった。
何で?何で?喜んでくれないんだよ?

俺は、キッチンに向かってく凛を見つめる。凛が戻ってくるまでに、俺もご飯を食べ終わった。

「ごちそうさまでした」

凛が戻ってくる。俺は、凛が持ってきたトレーに皿をいれる。

「何で?何も言わないの?」

凛は、俺をチラリと見ただけで、トレーを持ってキッチンに行ってしまう。

「凛、最後なんだから!いいだろ?」

凛は、食器をシンクに置いてから、スポンジを手に取ると洗剤を垂らして泡立てている。俺の話を聞いてくれない。

「何とか言ってよ!凛」

俺の言葉に凛は、「そういうのが命取りになるよ」とだけ呟いた。俺は、凛を後ろから抱き締める。

「凛、俺ね…。最後は、恋人でいたいんだよ」

凛は、何も答えてくれない。

「手を繋いで、デートして、服を買ったり、クレープやソフトクリーム食べたりして笑って…。最後にホテルに行って、甘い時間過ごそう」

凛は、カチャカチャとお皿を洗い始める。

「何で、無視するんだよ」

俺は、凛の耳元で大きい声を出してしまった。パリン……。凛は、手に持っていた大きめのお皿を落とした。そのせいで、グラスが割れたようだった。

「ごめんね。片付ける」

「そんなのどうでもいい」

俺は、凛の手を洗う。

「拓夢」

クルリと凛を自分の方に向けさせる。

「凛」

「不倫だから、デートは駄目だよ。わかって…」

「わからない。わかりたくない」

俺は、凛の両手を握りしめる。

「お願い。私、拓夢の人生を駄目にしたくない」

凛は、そう言いながら泣いてる。俺は、凛が抱えた何かを知らない。

「命取りになってもいい。そんな事で、俺の人生は駄目にならない。SNOWROSEの事を考えてる?それなら、気にしなくていいから」

俺の言葉に、凛は涙目で俺を見上げる。

「俺、SNOWROSEより、凛といる時間を選びたいんだ」

凛の目から、涙がボトボトと流れ落ち始める。

「だから、お願い。最後にデートしてよ」

俺の目からも涙が流れ落ちる。

「拓夢…」

「あの都会(まち)で、凛と過ごせたら…。俺、この先、何があっても頑張れるから…。だから、お願い。最後に恋人の時間を俺にちょうだい。じゃなきゃ、俺…」

俺は、その場に膝間付いた。

「生きていけない」

この先の未来が見えない。凛と過ごした思い出を持っていなかったら、俺は前に歩けない
気がしていた。

「わかった」

凛は、俺の覚悟に背中を押されたのか…。そう言った。


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