上 下
372 / 646
エピローグ【拓夢の話2】

そして、私は言うの

しおりを挟む
俺の手に凛の柔らかい唇があたる。

「そして、私はこう言うの…。龍ちゃんの方がよかったって」

そう言って、凛は唇を開いて俺の手の甲をハムっとした。

「俺じゃ駄目って事?」

「そうじゃないよ!同じ想いを繰り返さなくてよかったじゃないって思うだけ…。この13年は、若かったけど…。次、拓夢と過ごす事になる13年は気力も体力も衰えているの。激しいセックス以外の愛し方を知らない私達は、どちらかが死ぬまで肉体を貪り食うんでしょ?」

俺は、凛の言いたい言葉がわからなかった。

「もう、若くないからって事?まだ、まだ、若いよ」

「違う!若いとか若くないじゃないの…。私は、変われないって事」

その言葉に、凛が言いたい意味が理解できた。

「つまり、俺と結婚したら平田さんとセックスしたくなるって事?」

「簡単に言うと、そういう事」

そう言って、凛は俺の指を口に含んでいく。

「お別れみたいだよな…。凛が嫌な事しようとしてんだろ?それで、俺達はバイバイなんだろ?」

涙で視界がぼやけてくる。

凛は、俺の手を離した。その手を、自分の体に振れさせる。

「ここも、ここも、ここも、全部、全部、拓夢にして」

「凛」

「私と拓夢がね、一緒になるのは死ぬしかないんだよ」

「何でだよ」

「さっきも言ったよね!人間(ひと)は、そんなに簡単には変わらないって…。そして、私は、変わらないって」

「俺と一緒になる為に死ななくていいから」

俺は、凛の頬を撫でる。指先が濡れるのを感じる。

「最後の日まで、私を抱いてくれない?」

俺は、凛の口の中に親指を滑り込ませていく。舌を優しく指でなぞりながらこう言った。

「だったら、全部。俺にして…。龍ちゃんに抱かれていても、俺を感じるように…。俺もそうしてくれよ!見えない鎖で、死ぬまで俺を縛り付けてくれよ。誰を抱いても、凛を思い出せるように」

俺は、凛の唇から指を離して、引き寄せて抱き締める。耳元で、凛に囁く。

「これは、凛と俺が愛し合った証だから…。そして、俺をここまで振り回したんだから…。凛は、敢え無くなるまで苦しみで罪を贖(あがな)って」

俺の言葉に、凛も耳元で同じ言葉を言う。

「わかった。私の体に忘れられないぐらい拓夢を刻み付けるのだから、敢え無くなるまで、苦しみで罪を贖って」

「わかった」

見えない手錠(くさり)が、お互いにかけられたのを感じる。これは、俺と凛の一生をかけた償い。

「それは、旦那さんにした事は?」

俺は、凛の唇を指でなぞる。

「三回ぐらいは、あるよ。付き合ってた時だけだけど…」

「へー」

俺は、その言葉に激しく嫉妬していた。

「怒ってる?」

「怒ってる」

俺は、凛の口の中に指を突っ込んでいた。それを頑張りたいと思うほど、凛が旦那さんを愛している気持ちが伝わってくる。
しおりを挟む

処理中です...