上 下
343 / 646
エピローグ【拓夢の話1】

俺、駄目だ

しおりを挟む
俺は、隣に寝転がる凛を見つめる。

「ごめん。俺、駄目だわ」

そう言って、凛の髪を優しく撫でる。

「私も、我慢できなかったから」

「最低だよ、俺」

「そんな事ない。私から、誘ったの」

「違うよ!俺からだよ」

俺は、凛の涙をティシュッをとって拭ってあげる。

「家庭内別居して、家出して、拓夢を誘惑して…。私は、世界で一番嫌われる女だね」

「そんな事ないよ」

俺は、凛に笑いかける。

「旦那さんじゃ拭えない痛みや悲しみがあるんだろ?」

「それでも、駄目だよね。私…」

「駄目じゃない。必要な時間なんだよ。これは、凛にとって」

俺は、正当化しようとしているだけなのかもしれない。それでも、これは、凛にとって必要な時間で合って欲しいと思ってしまう。

「拓夢、私達の関係は不倫だよ!そんなのわかってる。でもね、私には拓夢が必要なの」

凛は、そう言って泣きながら俺を抱き締めてくる。誰に何と言われたって構わない。

「俺にも凛が必要なんだ」

互いの傷を埋め合うために、癒すために、必要な時間なんだ。だから、許されないとしても…。俺は、凛がここにいる間、関係を続けたいと思った。

「許されなくていいから、だから、忘れさせて…。ここにいる間だけでも…」

「わかった」

俺は、凛を優しく抱き締める。

「俺は、凛とどこまでも落ちていくよ」

「拓夢、ありがとう」

どんな制裁だって受けてやる。俺は、凛が欲しいんだ。

「お風呂入る?」

「うん」

「じゃあ、行こう」

「うん」

凛は、わざわざ服を着ている。俺は、パンツだけを履いて歩く。

「明るいのは、まだ恥ずかしい」

「充分見てるけど…」

「でも…」

「わかった!じゃあ、目瞑ってるから、先に入って」

「うん」

凛は、先にお風呂に入る。

「いいよ」

そう言われて、俺はお風呂場の電気を消して入る。

「シャワー、出すね」

「うん」

洗面所の明かりだけだと以外に暗かった。凛が、俺の体を流してくれるから、俺も流してあげる。二人で、湯船に入る。

「拓夢は、芸能人になるんだね」

「たいした事ないよ」

「もう、こんな風に出来なくなるね」

「俺は、よくても凛が面白おかしく書かれちゃうよな」

「逆だよ!私はいいけど、拓夢が駄目になっちゃうんだよ」

「そんな事ないよ」

俺は、凛を抱き締める。

「だから、大切にしたい。撮影行くまで」

「それって、撮影が終わったら帰るって事だよな?」

「今は、そう考えてる。だって、拓夢にとって大切な撮影だし…。それに、龍ちゃんとずっとこのままってわけにもいかないでしょ?」

「確かに、そうだよな」

俺は、それしか言えなかった。凛を引き留める事は出来ないから…。
しおりを挟む

処理中です...