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拓夢の最後の話2

動画と電話

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俺は、テーブルの端に置いていたイヤホンを取った。耳にいれて、昨日の動画を再生しながら、パンとコーヒーを食べている。

凛の顔が映し出されてる映像を見つめる。もう、こんな風に出来ないからって撮影した。凛が悪い人間なら、俺の動画は売られるんだろうなー。

安易に動画を撮らせるからだーとかって世間に叩かれるんだろうな…。でも、俺は、この動画を撮ってよかったと思ってる。

俺は、イヤホンを外して、動画を一時停止する。

画面に映る凛の輪郭を指でなぞる。

「凛、愛してるよ」

ブー、ブー

「もしもし」

『おはよう』

「おはよう」

『昨日、智が来てたらしいんだ。チケット買って』

電話は、まっつんからだった。

「そっか」

『理沙が、俺達に会ってかないのかって聞いたら、会わない、会いたくないからって言って帰って行ったらしいんだ』

「そっか」

『あのさー、拓夢』

まっつんは、話しづらそうにしてる。

「何?」

『あの掲示板作って書き込んだのって、智じゃないのか?』

まっつんの言葉に、俺は固まっていた。

「そんなわけないだろ」

『俺も、そう信じたかったんだけどさ!内容からして、智以外で知る事はあり得ないと思ったんだよ』

「何で、智がそんな事するんだよ」

『メジャーデビューされんの嫌だったのかなって』

「そんなわけないよ!智は、誰よりも俺等を応援してくれてるはずだよ」

『どうかな?智だって、辞めたくなかったんじゃないのかな?本心では』

「まっつん、そんな悲しい事言うなよ」

俺の言葉に、まっつんは少しだけ無言になった。そして、『三日後、契約しに行った帰りにでも、智に話し聞きに行かないか?みんなで』と言ってきた。

「いいよ!智は、そんなやつじゃないから!聞きに行こう」

『じゃあ、三日後な』

「うん」

プー、プー。

俺は、まっつんの言葉に少しだけイライラしながらパンを噛る。智が、そんな事するわけがない。それに、智はまっつんの母親との事なんて知らないはずだ。

切れたスマホを見つめると凛が現れた。俺の苛立ちが静まってくのを感じる。

「凛」

俺は、スマホの凛の画像を指で触れる。

「智がそんな事しないよな!凛なら、そんな事しないって言ってくれるよな」

コーヒーを飲む。凛の画像が滲んでいく。

もしも、智だったら?

メジャーデビューしたかったって事なのか?

だったら、今からだって一緒にすればいいだけの話じゃないのか?

わざわざ、SNOWROSEを潰す必要がどこにあるんだ?

考えても、考えても、わからなかった。
俺には、智がそんな事をする理由が見当たらなかった。

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