上 下
301 / 646
拓夢の最後の話2

朝…

しおりを挟む
カーテンの隙間から漏れてくる光で、俺は朝になったのを気づいた。

「ヤバ、もう朝だ」

会社を休んでいてよかった。有給があったから、俺は消化する為に暫く休みを頂いていた。元々、バンドをしているのを知っている会社の人達は俺がいつかメジャーになるのを楽しみにしてくれていた。今まで、ほとんど纏まった有給を使った事は一度もなかった。

シャーっとカーテンを開いて、外を見つめる。この数週間で、いろんな事が目まぐるしくかわった。

人生ってそんなもんだよな…。何が起きるか何かわからない。あの日、智がバンドを辞めるって言わなかったら、凛と関わる事はなかった。

「濃い時間だったな」

俺は、カーテンを閉めてキッチンに行く。俺は、ヤカンに水をいれてお湯を沸かす。この先、どんな恋愛をしても俺は凛を忘れないのがわかる。

たった数週間が、数ヶ月にも数年にも感じる濃い時間を過ごした。
俺は、マグカップにインスタントのコーヒーの粉を注いで沸いたお湯を注いだ。

ポケットにいれっぱなしだったスマホを見つめる。

【無事につきました。今日は、ありがとう】

凛からのメッセージは、五時間以上前だった。

「うわー。あり得ない事したわ」

俺は、今さらながらメッセージを返す。

【無事についてよかった。ゆっくり休んで!また、会えるのを楽しみにしてる】

ありきたりな文章だったかな?

ブブッ

【おはよう。私も楽しみにしてる】

凛のメッセージに顔がにやけてくる。俺は、多分世界で一番浮かれてる。
コーヒーといつものパンを持ってダイニングテーブルに行く。

【また、時間と場所わかったらメッセージするから】

愛してるって言い続けたい。でも、そんな言葉を送るのはやめた。
コーヒーを飲みながら、パンを噛る。ネットの記事を俺は見つめていた。

【milk、1000人限定ライブ】と書かれた記事を見つけてクリックする。

【昨日1000人限定でmilkのライブが行われていた。どうやら、milkの弟的存在のバンドが発表されたらしい。まだ、全貌は事務所から明かされていないから詳しくかけないのが残念だ。ただ、一つ言えるのは素敵なバンドだった。相沢マジックが、またかかりそうな気が私はしている】

その後は、相沢さんについてが長々と書かれていた。相沢マジックか…。もし、そうなら嬉しいな!

そう思いながらも、嬉しさと悲しさが俺の心の中に同居してるのがわかる。長年の夢を叶える嬉しさとそのせいで凛との関係を終わらせないといけなかった悲しさ…。

本当は、俺…。

バンドのメジャーデビューより、凛をとりたかったんだと思う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha
恋愛
男よりも“綺麗で格好良い”と言われる“純”が仕舞ったはずの“愛”が、また動き出す。 今後は純愛ではない形で。 ホワイトデー、30歳の誕生日の夜に再会をしたのは3年前に終わったはずの身体の関係“だけ”の相手。 2人で何度も通った店で再会をし、3年前と同じように私のことを“純ちゃん”と呼び、私のことを“女の子”として扱ってくれる。 ちゃんと鍵を掛けて仕舞ったはずの“愛”がまた動き出してしまう。 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』連載中 『朝1番に福と富と寿を起こして』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高21位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 ※イラストもBu-cha作

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

処理中です...