上 下
300 / 646
拓夢の最後の話2

ポッカリ開いた隙間

しおりを挟む
「帰るか」ポソっと呟いて、俺は歩き出した。電光掲示板に、電車の案内が消えていた。凛が、乗ったのがわかった。

さっきまで、キラキラしていた景色は、夜の深い闇に飲み込まれてる。【漆黒の闇が広がって、躊躇いながら歩くしかない】大昔に読んだ小説の文章を思い出した。怖い話だったっけな?確か、向こう側には行きたくないって気持ちだったと思う。俺も、それを強く感じる。凛がいないあの場所(いえ)に帰りたくない。

それでも、帰らなくちゃならなくて…。俺は、トボトボと家に向かって歩いて行く。気分は、最悪だ。「もっと続けたかった」俺も凛と同じだった。世間に何と言われようが、旦那さんに怨まれようが…。俺も、もっと続けたかった。いつか凛の絶望が完全に消えて「バイバイ、もう拓夢は必要ないよ」って言われるまで一緒に過ごしたかった。その日まで、お互いを貪り食いたかった。もう、俺の身体が凛じゃなきゃ感じなくなるまで…。

「たりねーよ」俺は、小さく呟いて道路を蹴飛ばした。こんなんじゃ足りない。もっと、もっと、もっと…凛が欲しかった。

「ほしむーらさん」

帰宅すると隣の人に声をかけられた。

「こんばんは」

「ほしーむらさん!いまきたく?」

「あー、送りに行って帰ってきました」

「そうですかー」

隣人は、不思議な顔をしていた。

「どうしました?誰か来てましたか?」

「あー、はい。いなくなりました。声かけたら」

「どんな人ですか?」

「どんな?おんなだたよ!ただ、ほしーむらさんにようじって聞いたらはしってった」

「誰かな?」

「また、くるね」

「ですね」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

俺は、気にも止めずに頭を下げて家の鍵をあける。もしかしたら、明日花ちゃんか美沙だろうって思っていたから…。

ガチャ…

玄関に入って、鍵を閉める。さっきまでいた、凛の存在のない真っ暗な家。

「凛、俺、もっと凛を知りたかった」

その場に崩れ落ちてく。俺は、玄関にうずくまって泣く。

「もっと、俺を振り回してくれてよかったんだよ」

涙が頬をつたうのがわかる。もっと、凛と過ごしたかった。もっと、凛と続けたかった。もっと、凛を抱きたかった。本心が溢れてくる。

俺は、ゆっくり起き上がった。リビングに行くと棚からノートを取り出した。忘れたくない、この気持ちを忘れたくない。

俺は、必死でノートに感情を書いていく。俺には、これしかない。凛に残してあげれるものは、もうこれしかないから…。俺は、朝日が昇るまで、ひたすらノートに書き続けていた。ポッカリ開いた隙間を埋めるように…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

愛を知らない私と僕

こむぎ
恋愛
「貴方には次期総帥になってもらいます。」 孤児院から妹と一緒に引き取られ、里親の母の第一声はこれでした。 妹にしか注がれない母からの愛情。 私は眺めてるだけ。 「お願いです。誰か私を愛してください。」 そう願う15歳、高校生にならずに財閥の総帥を務める鳴瀬。 「お前なんかいなければ良かったのに」 母の日にプレゼントを送りました。 「ありがとう」ではなくこう言われました。 外国人の父と日本人の母の間に生まれた俺は、愛されません。疎まれてます。 「君、とても綺麗だね?俺とデートしない?」 そんな環境で育ったからか、チャラ男に化けてます。 「誰か、本当の俺に気づいて。そして、、、俺に愛を下さい。」 そう心で叫ぶ高校生の悠斗。 そんな2人と周りの友人達を取り巻く物語。

“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha
恋愛
男よりも“綺麗で格好良い”と言われる“純”が仕舞ったはずの“愛”が、また動き出す。 今後は純愛ではない形で。 ホワイトデー、30歳の誕生日の夜に再会をしたのは3年前に終わったはずの身体の関係“だけ”の相手。 2人で何度も通った店で再会をし、3年前と同じように私のことを“純ちゃん”と呼び、私のことを“女の子”として扱ってくれる。 ちゃんと鍵を掛けて仕舞ったはずの“愛”がまた動き出してしまう。 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』連載中 『朝1番に福と富と寿を起こして』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高21位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 ※イラストもBu-cha作

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。 イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。 自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。 悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない! あとは勝手に好きにしてくれ! 設定ゆるゆるでご都合主義です。 毎日一話更新していきます。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...