上 下
295 / 646
拓夢の最後の話2

苦しませてる

しおりを挟む
「もし、出来たら旦那さんと別れて、俺と一緒になってさ」

俺は、馬鹿だ。凛が欲しいからってヒドイ事言ってる。

「したいなら、していいよ!でも、拓夢が思ってる事は起きないよ」

凛の目から、止めどなく涙が流れてくる。

「わかんないだろ?」

「わかるよ!!」

さっきと違って、凛は、怒った声で言う。

「私がどれだけ、この身体に裏切られてきたと思う?いくら出したって妊娠なんかしないよ。そんなの私が一番わかってるよ」

「ごめん、凛」

凛は、あの日の目をしていた。出会ったあの日と同じ目を…。俺は、タオルケットを取って自分の上にかけてから、凛を起こして抱き締める。

「していいよ」

「するなら、ちゃんと避妊するから」

そして、俺の上に凛を座らせた。

「ごめんね、先に酷い事言って」

「わかってるよ。俺が、凛を欲しくなったから言ったんだろ?」

凛は、答えずに俯いた。

「撮らせて、声だけでいいから」

「いいよ」

「もう、わがまま言わないから」

「わがままじゃないよ!私、結婚してなくて赤ちゃんが出来る身体なら…。拓夢を選んでたよ」

その言葉は、凛の答えだった。俺は、どう転んだって選ばれないのがわかった。出会って僅かな時間で、凛はあの日より強くなったのを感じた。そして、旦那さんへの愛をより認識したのがわかった。

「スマホとってくる」

「私のも…。洗面所の鞄に入ってる」

「わかった」

俺は、凛を降ろしてスマホを取りに行く。最初から、選ばれないのなんてわかっていた。なのに、何でこんなに苦しいのかな…。

俺は、洗面所の凛のバックからスマホを取り出した。俺のスマホも洗面台から取った。キッチンで、500のペットボトルの水を取って持って行く。

「はい」

「ありがとう」

「水、一本しかなかったから先に飲んで」

「飲ませて」

凛は、そう言ってきた。俺は、ボトルを開けて凛の口に持っていこうとする。

「そうじゃない」

その手を凛は止めると、俺から水を取って、口に含んだ。そして、俺にキスをしてくる。

「ゴクッ」

「そうしてって事」

凛は、そう言って笑った。

「撮って」

俺は、凛にカメラを起動するように言った。

「拓夢も撮って」

凛も俺にそう言った。

ピコン…。

二人同時に録画ボタンを押した。

「凛、愛してるよ」

「私も、愛してる」

「カメラ向けてるけど?」

「これぐらいの角度でしょ?」

「何の角度?」

「拓夢が映ってる、彼女目線ってやつ?あー、違う」

「エッチなDVDの話してんの?」

「何か、その言い方の方がいやらしく感じるの不思議だね」

俺達は、お互いの顔にカメラを向けて話してる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】旦那様、お飾りですか?

紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。 社交の場では立派な妻であるように、と。 そして家庭では大切にするつもりはないことも。 幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。 そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

処理中です...