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拓夢の最後の話

ゆっくり休んで

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「じゃあ、三日後!事務所に来てくれるかな?それまでに何とかしとくから!で、契約とね!後、スーツは適当にかけといてクリーニング出すから」

相沢さんは、そう言っていなくなった。

「俺、帰るわ!」

まっつんは、暗い声でそう言った。

「気をつけて」

「うん」

「俺としゅんも帰るわ」

「うん」

かねやんとしゅんも帰って行った。

「送るよ!」

「えっ、うん」

凛は、驚いた顔をしていたけれど…。ニコっと笑ってくれる。

「ちょっと待ってて!服着替えてくるから」

「うん」

俺は、服を着替えた。スーツをかけてから、スーツケースをゴロゴロと引く。

「行こうか」

「うん」

まだ、どこか、俺は、一般人だった。久しぶりに凛と話す。そっちの方が嬉しかった。

「久しぶりだね」

「2日ぐらいでしょ?」

「長かったよ」

手を繋ぎたいけど、繋げない。もどかしい距離感で歩く。

「さっきの曲、凄くよかったよ」

「ありがとう」

駅について切符を買って改札を抜ける。ホームにつくと電車が来ていた。
電車に乗り込んで、人が少ない車両を見つけた。

「拓夢」

「やっと、話せる」

サラリーマンが一人だけ、椅子に座ってスマホをいじっていた。俺は、凛の手を引いて座る。

「話せる?」

「さっきの曲、凛に書いたんだよ」

プシュー、電車が閉まって動き出した。

「嬉しい」

「今日は、よかったの?」

「うん。友達とライブに出かけるって話してきたから」

「そう」

「ごめんね。連絡出来なくて…」

「ううん」

凛は、話しづらそうにしながら俺の耳に手を当てて囁いた。

「夫が何か気づいてそうなの」

「終わらせなきゃいけないよな」

「うん」

「最後に、駄目かな?」

「いいよ」

そう小声で話した。俺の家のある駅についた。凛と二人並んで降りる。階段を上がって、改札を抜けて、駅から少し離れた瞬間。俺は、凛の手を握りしめた。

最後だから、これが最後だから…。神様どうか許して下さい。そう心の中で、何度も何度も呟いていた。

「早く帰らなくてもよかった?」

「遅くなるって話したから」

「そっか」

「心配しないで!大丈夫だから」

そう言って、凛はニコッて微笑んでくれる。今の俺の視界にも心にも凛しか存在してなかった。だから、きっと浅はかな行動だったんだと思う。
デビューが決まった以上、こんな事をするべきじゃなかった。でも、今の俺には何も見えてない。凛といる。ただ、それだけで充分だったから…。

家に凛を連れてきた。玄関を開けた瞬間。我慢出来ずに抱きしめていた。
玄関の鍵を閉めながら、さらに抱き締める。
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