上 下
275 / 646
拓夢の最後の話

会いたかった人

しおりを挟む
凛がいた。手を握りしめたくなって、我慢する。
凛も、俺を見つめてるけど我慢しているようだった。

「たくむん?どうしたの?」

「いや、別に」

理沙ちゃんは、人から見えないように俺の手を引っ張ってくる。

「何?」

「別に」

そう言って、凛の手も引っ張ってきた。理沙ちゃんのお腹の前で、俺と凛は手を繋いでいた。

「理沙、最近腹出てきただけだろ?妊娠じゃないだろ?」

まっつんは、そう言って俺と凛の手が重なりあってるのが見えないように動いた。

「それ、俺にも昨日やったやつだろ?してないのかよ」

そう言って、かねやんがわざと理沙ちゃんのお腹に手を当てる。

「俺の彼女の腹に触んなよ」

「喧嘩すんなって」

後ろに居たのは、しゅんだった。

「みんなよかったね」

「母ちゃん、しっーだろ」

「あー、ごめんね」

何で、みんなこんなに優しいんだよ。凛は、俺の手を握りしめてくる。俺は、驚いて凛を見つめる。理沙ちゃんに何か話してる。

「たくむん、連絡出来なくてごめんねー。ちょっと色々考えたりしてて!メッセージしようとはしたんだよ。でも、何か邪魔したら悪いかなとか思ちゃって!で、今日直接言おうと思ったんだよね!何とか来れたんだよー」

理沙ちゃんは、凛の言葉を自分の言葉に変えて話してくる。

「別にいいよ!もう、何かよくなった」

俺の言葉に、凛はさらに手を握りしめてくる。俺も、凛の手を握りしめる。

「これから、チケットの販売を開始します」

その言葉に手を離した。

「やっとだな!」

「長かったー」

理沙ちゃんは、俺にグッと小さく親指を突き出した。

「ありがとう」

俺は、理沙ちゃんにだけ聞こえる声で呟いた。理沙ちゃんは、うんうんと首を縦に振ってくれる。

「えー、チケットの販売枚数は750枚を予定しています」

「結構あるんだな」

「Artemisのファン、凄かったらしいから」

まっつんは、そう言った。

「今回シークレットで出演を予定しておりました。Artemisは、出演致しません」

その声に、「やっぱり、こないんじゃん」「最悪」「えー」そんな声が聞こえてくる。ゾロゾロと列から離れて帰って行く人の姿が見える。

「結構、人減ったな」

「確かに」

俺は、かねやんと列を見つめていた。

「先、行ってるから」

「優太も行きなよ」

「しゅんも行きなさい」

そう言われて、まっつんとしゅんは列から出てきた。

「行こうか」

「うん」

俺達、四人はライブハウスに入る。

「智、多分来るって!」

しゅんの言葉に、俺達は黙っていた。

「相沢さんが、後ろで聞かせてくれるらしいから!後で来るんじゃないかな」

「そっか」

「ごめん、勝手に呼んで」

「いや」

まっつんとかねやんは、何も話さなかった。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族の娘、エレンは幼いころから自分で家事をして育ったため、料理が得意だった。 そのため婚約者のウィルにも手づから料理を作るのだが、彼は「おいしいけど心が籠ってない」と言い、挙句妹のシエラが作った料理を「おいしい」と好んで食べている。 それでも我慢してウィルの好みの料理を作ろうとするエレンだったがある日「料理どころか君からも愛情を感じない」と言われてしまい、もう彼の気を惹こうとするのをやめることを決意する。 ウィルはそれでもシエラがいるからと気にしなかったが、やがてシエラの料理作りをもエレンが手伝っていたからこそうまくいっていたということが分かってしまう。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

処理中です...