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拓夢の最後の話

目覚めた朝

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「うーん」

絶対に寝てはいけない場所で俺は寝ていた。

「寒っ」

ゆっくり起き上がった。昨日、あのまま洗面所の床で寝ていたらしい。

「いててて」

ゆっくり起き上がった。身体中、バキバキで痛い。

「泣いてたか!」

少しだけ腫れた瞼を鏡で見てそう呟いた。俺は、顔を洗ってうがいをしてキッチンに行く。ダイニングテーブルの上のスマホを手に取る。凛からのメッセージはなかった。

「まだ、七時だ!寝よう」

俺は、スマホを充電器にさしてベッドに向かった。悲しくなんかない。当たり前なんだ。凛には、旦那さんがいるんだから…。

なのに、何で涙がこんなに流れてくんのかな…。
ベッドに横になる。目覚まし時計を12時にセットした。まだ、かすかに凛の香水の匂いが残ってる。

俺は、目を閉じて想像する。昔、俺がまだ初めてを経験してなかった頃。好きだった彼女を思いながらした自慰行為だ。

うつ伏せになって、凛を想像する。優しくキスをするように唇を動かす。左手は、凛の手を握りしめるように動かして…。右手は、凛の敏感な場所をなぞるように動かす。ゆっくりと腰を動かしていく。左手をそれに持っていく。

「はっ!何やってんだよ!中坊か…ハハハ」

俺は、我ながら出来た事に驚いていた。

「風呂入らなきゃだなー」

懐かしいやり方だった。

「まだ、これが出来るんだなー。凄いわ」

俺は、ベッドから起き上がった。無理だと思ってたけど、僅かに残る凛の香りがよかったのかもな。

起き上がって、俺はそのまま風呂場に行く。シャワーの栓を捻っておく。洗濯機に服を放り込んだ。まだまだ、若いって事だな!

最後になるなら、この身体中に凛を刻み付けてもらいたい。

お湯が出たのを確認してシャワーに入る。凛に会いたい。俺は、平田さんみたいにはなれない。凛を旦那さんから奪うなんて出来やしないし…。

例え脅されていたとしても、凛との行為を録画するなんて出来ない。

分別のある大人ってのになってしまったんだな、俺…。そんな風になったから、世間とか常識とかの顔色伺って生きてくんだよな。本当は、今すぐに凛に電話したいのに我慢しちゃって…。

「凛……。俺、大人になりたくない」

俺は、シャワーで溢れてくる涙を流した。

大人になる前に凛と出会ってたら、平田さんの歳で凛と出会ってたら…。
【運命とか奇跡とか、そんな素敵な言葉を並べたって不倫は不倫だからね】あの日の平田さんの母親の言葉が頭に流れた。

そうだ!忘れてた。どんな綺麗な言葉を並べたって俺と凛は許されない関係なんだ。そんな簡単な事を忘れてしまいそうに俺はなっていた。
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