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凛の話10

凛君の想い出のスープ

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「凛さん」

後ろから抱き締められる。

「ごめんね!隠れてすればよかったよね」

「ううん。我慢出来るから」

「我慢しなくてもいいんだよ」

「するから、ちゃんと」

凛君が未成年でよかったと強く思った。拓夢と同じ年なら私は流されていた。そして、私は誰かれ構わず寝るような女になっていただろう…。
私は、凛君の手を握りしめる。

「凛君は、きっと同じぐらいの年の子と一緒に大人になっていくべきだよ」

「何で?」

「その方が、愛を覚えられると思うから」

「よくわからないよ!凛さん」

「うーん。難しいけど…。一つずつ一緒に階段昇ってく方がいいんだよ」

凛君は、私をくるりと自分の方に向ける。

「僕は、凛さんがいいんだよ」

そう言って、引き寄せられた。当たり前みたいに凛君の背中に手を回した。

「ご飯食べて、戻ってきたらたくさん話をしない?」

「いいよ」

「僕、凛さんと話をたくさんしたいな!何が好きなのか嫌いなのか…。そんな話とか、明日には忘れちゃうような話とか…」

「いいよ!しよう。沢山、沢山、話そう」

「うん」

凛君は、私をギュッーって抱き締めてくれる。その包み込む腕は、子供じゃないのがわかる。凛君は、大人なんだ!高校生って、もう大人なんだ。

「行こうか」

「うん」

急に離れられたら、何だか寂しかった。凛君の体温は、若いから高めに感じる。だから、よけいになくなると寂しく感じたのかもしれない。凛君にそっと手を繋がれる。私も優しく握り返す。部屋を出て、手を繋いだままご飯を食べる場所にやってきた。ビュフェスタイルだと思っていたけど違った。凛君は、手をそっと離した。私と凛君は座る。すぐに、ホテルの人がやってきて料理を運んできてくれた。

「父さんとここの席で食べたんだ」

「そうなんだね」

「ここのスープ!最高なんだよ!体に染み渡るって感じでね」

そう言った時にスープがやってきた。和ではなくて、洋なのもありだと思った。

『いただきます』

二人同時に言って、食べ進める。凛君が、話してくれたようにスープは体に染みていく。傷が癒えるような感覚を覚えるほど…。食べるタイミングを見て、従業員さんが料理を運んでくれる。そのタイミングが丁度よくて食べやすかった。

『ごちそうさまでした』

私と凛君は、立ち上がった。

「戻ろうか?」

「うん」

凛君は、また私の手を握りしめてくれる。今から、二人でいろんな話をするんだと思ったら、まるで修学旅行に来たみたいでワクワクする。凛君が扉を開けてくれて、廊下に出る。

「凛」

その声に、凛君は私の手を強く握りしめた。

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