上 下
192 / 646
凛の話10

凛君の想い出のスープ

しおりを挟む
「凛さん」

後ろから抱き締められる。

「ごめんね!隠れてすればよかったよね」

「ううん。我慢出来るから」

「我慢しなくてもいいんだよ」

「するから、ちゃんと」

凛君が未成年でよかったと強く思った。拓夢と同じ年なら私は流されていた。そして、私は誰かれ構わず寝るような女になっていただろう…。
私は、凛君の手を握りしめる。

「凛君は、きっと同じぐらいの年の子と一緒に大人になっていくべきだよ」

「何で?」

「その方が、愛を覚えられると思うから」

「よくわからないよ!凛さん」

「うーん。難しいけど…。一つずつ一緒に階段昇ってく方がいいんだよ」

凛君は、私をくるりと自分の方に向ける。

「僕は、凛さんがいいんだよ」

そう言って、引き寄せられた。当たり前みたいに凛君の背中に手を回した。

「ご飯食べて、戻ってきたらたくさん話をしない?」

「いいよ」

「僕、凛さんと話をたくさんしたいな!何が好きなのか嫌いなのか…。そんな話とか、明日には忘れちゃうような話とか…」

「いいよ!しよう。沢山、沢山、話そう」

「うん」

凛君は、私をギュッーって抱き締めてくれる。その包み込む腕は、子供じゃないのがわかる。凛君は、大人なんだ!高校生って、もう大人なんだ。

「行こうか」

「うん」

急に離れられたら、何だか寂しかった。凛君の体温は、若いから高めに感じる。だから、よけいになくなると寂しく感じたのかもしれない。凛君にそっと手を繋がれる。私も優しく握り返す。部屋を出て、手を繋いだままご飯を食べる場所にやってきた。ビュフェスタイルだと思っていたけど違った。凛君は、手をそっと離した。私と凛君は座る。すぐに、ホテルの人がやってきて料理を運んできてくれた。

「父さんとここの席で食べたんだ」

「そうなんだね」

「ここのスープ!最高なんだよ!体に染み渡るって感じでね」

そう言った時にスープがやってきた。和ではなくて、洋なのもありだと思った。

『いただきます』

二人同時に言って、食べ進める。凛君が、話してくれたようにスープは体に染みていく。傷が癒えるような感覚を覚えるほど…。食べるタイミングを見て、従業員さんが料理を運んでくれる。そのタイミングが丁度よくて食べやすかった。

『ごちそうさまでした』

私と凛君は、立ち上がった。

「戻ろうか?」

「うん」

凛君は、また私の手を握りしめてくれる。今から、二人でいろんな話をするんだと思ったら、まるで修学旅行に来たみたいでワクワクする。凛君が扉を開けてくれて、廊下に出る。

「凛」

その声に、凛君は私の手を強く握りしめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。 さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!? 人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに… ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

処理中です...