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凛の話10

その人は、越えれない

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凛君は、私の手を握りしめてくる。

「どうしたの?」

「ううん、その人を越えられないね。僕は…」

「その人?」

「旦那さんでしょ?今の電話…」

「うん、そう」

「凛さんを穏やかにする人なんだね」

「ごめんね」

「何で?謝るの?」

凛君は、そう言って私の頬に手を当てる。

「だって、私。凛君を今傷つけたよね」

「ううん。星村さんが言った言葉の意味が理解出来ただけだよ」

「拓夢が言った言葉?」

「うん。凛さんは、僕も星村さんも好きにならない」

「そんな事…」

「あるんだよ!そんな顔させれるのは、旦那さんだけだから…。でも、今日の凛さんを支えるのは僕だから」

「うん」

「お酒飲んでいいよ」

そう言って、凛君はコンビニの袋からチューハイを取ってくれる。

「どうぞ」

「ありがとう」

プシュと開けた私に、凛君は紙コップを差し出してくれる。私は、トクトクと注いだ。

ゴクッゴクッと飲む。

「ケーキ食べよう」

凛君の手が、カタカタと震える。

「食べさせてあげようか?」

「うん」

私の言葉に凛君は、フォークを渡してくれる。私は、チーズケーキを取って凛君に食べさせてあげる。

「あーん」

「あーん」

ゆっくり口に入れてあげる。凛君は、飲み込めなくて固まってる。

「出していいんだよ!無理しちゃ駄目だよ」

私は、凛君の頬を撫でる。凛君は、その手を掴んで見つめてくる。

【きっと、勘違いなのかもしれない。それでも、優しくされたくて…。嘘でも言われたいんだよ!愛してるって】

頭の中を響く言葉に導かれるように、私は凛君に囁いた。

「愛してる」

凛君は、驚いた顔をしてゴクッとチーズケーキを飲み込んでしまった。

「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ」

「大丈夫?」

私は、背中を擦った。

「ゴホッ、ゴホッ」

凛君は、ミルクティーをゴクッゴクッと飲んだ。

「大丈夫?凛君」

「大丈夫、大丈夫。あー、ビックリして飲んじゃった」

「ごめんね。ビックリするよね」

私は、恥ずかしくなってゴクッゴクッとチューハイを飲んだ。

「照れてる?凛さん」

「どうだろうね?」

凛君は、私の頬をプニプニと押してくる。

「やめてよー」

「可愛いよ、凛さん」

頭を優しく撫でてくれる。

「気持ち悪くない?」

「凛さんのお陰で、大丈夫だよ!」

「よかった」

私は、凛君の頭を撫でる。

「チーズケーキ美味しいね」

「うん」

やっぱりドキドキする。だけど、それ以上に凛君が笑ってくれる事に安心する。私は、チューハイを飲み干した。

「はい」

「ありがとう」

新しいチューハイを差し出される。

「それ、りんごジュースみたいな感じ?アップル味でしょ?」

「うん」

さっきから飲んでる林檎チューハイの味を聞かれる。
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